おっ?俺に語らせちゃう?良いの?語っちゃうよ、俺。
スィーツ店オーナーであるパテシエの傑儀さんから、天使のパンケーキについての感想を求められたんだがな。
それ、俺に聞いちゃう?
語っちゃうよ、俺。
「そうですね。
まずは、その柔らかさ、でしょうか。
ウェイトレスさんから、スプーンで食べるように勧められましたが、ま、当然でしょう。
形崩れしないのに、スンナリとスプーンが埋まる。
感覚的には、まさにプリンでしょうか。
それを掬い、口へと。
最早、プリンのつもりで、口へと入れた、ソレが。
実は淡雪が如き食感とは!
フワフワで、綿菓子ではないが、雲を口へ含んだがごとし!
そして、淡淡と溶け去り、口の中へ旨みと甘味が広がる。
陶然となりそうでしたが、そこへ、添え物が目に入る訳です。
メープルシロップに、ハチミツ、ソレにバター。
ソフトクリームも、実に合う!
このソフトクリームが溶け難くなるように、保冷の器に盛られているのも、実に嬉しいですな。
コレらの添え物にて、味を自由に変えられるのも楽しい。
ですが、食べ進めると、少々クドクなります。
ここで頂いた紅茶、このキャラメルティーがぁ、実に、実にぃ、良い仕事をしました。
爽やかでクセのない紅茶が、口の中をサッパリさせますが、紅茶のフレーバー。
そう、キャラメルの香りが、パンケーキの余韻を留める!
さすれば、さらにパンケーキをいただきたくなり、味を変えつつ紅茶を!
で、気付いたら、パンケーキがなくなっていましてねぇ」
「か、語りますねぇ」
そがぁに引かんでもさぁ。
しかし、俺の語りが効いたのか?
店内客の全員が、パンケーキを頼んでんだが?
っか、レジへ向かってた客と、会計中の客が席へ戻ってパンケーキを頼んでる。
いや、帰らんの?
話してた傑儀さんが、慌てて厨房へと戻っていったよ。
しかし、コレがシンクロニシティかぁ。
え?
違う?
そなの?
オーナーが俺の前から去るとな、待ってたように立ち上がる人物が。
ストライプ柄スーツの彼だ。
トイレへでも行くのかと思ってたんだがな、なんか、コチラへ向かって来てんですが?
俺の前まで来た彼が、おもむろにな。
「いやぁー
まことに素晴らしい語りでしたなぁ。
どこかへ所属なされたり?」
「いや、アンタ誰よ?
会ったこと無いよな?」
無遠慮な物言いに、軽く突っ込む。
「コレは、失礼」って、大袈裟に一礼。
うん、コイツ、俺、好きになれねぇ!
「用が無いなら、俺は会計して帰るが?」ったらさ。
「い、いや、機嫌損ねたなら謝るからさ!
ちょっと話し聞いたってーなぁ」
なんでエセ関西弁?
「で、なにか?」
ちょっとイラっとしながら聞くとな。
「まま、落ち着きなはれ。
なっ。
ワテ、猪頭っうんや。
本来は地で話さんと、東京言葉を使うとるんやがな。
アンさんは、慇懃な態度が鼻に付くタイプやと見た。
せやさかい、コッチの言葉で話させて貰うでぇ」
まぁ、さっきよりはマシかな。
「で?」
「敵わんなぁ」って、頭後ろを掻く。
「実はワテ、ある芸能プロダクションのスカウト、なんてのしてましてなぁ」
うん、知ってた。
「実は、アンさんの語り!
これに、惚れた!」
「いや、悪いが、その気はないからな」
即座に突っ込む。
「ちゃうわぁっ!
ワテかて、その気あらへんわっ!」
うむ、良いリアクションである。
「そうか、その、その気がない猪頭さんが、俺になにか?」
「そこ、強調するかねぇ。
っか、スカウトや、っうたろ?」
「だから?」
「アンさん、絶対にワザとやろ?」
「だから?」
「だぁ!
だからぁ、アンタをスカウトしとんのっ!」
「なんで?」
「3文字以上で、返さんかぁーい!」
「ん?」
「減るんかぁーい!」
「いや、さっきから、1人で騒いでるがスカウトなら興味無いからな。
じゃ、俺は帰るから」
そう告げ、俺は席を立つ。
猪頭、唖然。
ん?
放置だが?
さて、キャリアーも返したし、パンケーキもいただいた。
お暇するかね。




