さぁ、狩りの時間です。どこぞの、暗殺者ですかぁっ!
事態を理解したアムズさんの何人かが、切り分けた肉と、森から採取した香草と香辛料を持って移動を。
自宅へ帰るのでは無く、知り合いへ会いに行くみたいだ。
まぁ、大半は親や師匠の所だろう。
若い彼らには、女神様と接する機会はあまりない。
それも有り、広場で女神様の居る場所へ寄って来ていたのだから。
だが、事態は彼らの手に余ることにな。
彼らが女神様を歓待する宴などへ出れるハズもない。
だから、どんな料理が出されているのかは、分からない。
だけどな、今日食べたような、素晴らしい料理は出ないであろうことは、分かる。
なにせ彼らにとっても、今日、俺が提供した料理は衝撃的だったのだ。
食べ物は、そこら辺を歩けば、気楽に手に入る。
むろん、魔法有きではあるのだが。
だから、食べるとは、このような物だと、疑いもしなかったみたいだ。
食べるのに苦労しないから工夫もせずに、それが当たり前と考えていた日常が、今日崩れ去ってしまった。
物作りや芸能を優先していた彼らだが、もう正しくない工程を経た肉をあつかいたいとは、思わないだろう。
そんな彼らが、ここで丁寧に狩り、丁寧に解体した肉を持ち帰り、舌で覚えた料理を魔法で再現したとしよう。
それを食べた知人達は、なんと思うだろうか?
さらに女神様のことを知れば。
うん、明日から忙しくなるかもな。
そんなん思っていたら、時が止まっていた。
お世話になります、です、はい。
で、時が動き出すとな。
「で、藤吾様?
僕に狩りと解体を、教えてくれるんだよね?」
そう、アサァーラァさんがね。
「教えると言うか、アドバイスですね。
もう狩りや解体はできるんでしょ?
だから、さっき言ったように獲物を狩ってください」
「内臓を傷付けずに、肉へ血が巡らないように、だったわよね?
そうなると、血を抜いちゃうのが良いかな?」
いや、この女神様。
何気に怖いことを仰っておられますが?
ココへ残った者達で森の中を移動する。
俺は歩きながら、食用できる植物を教えつつ採取をな。
つか、こんな種類の食材が、豊富かつ手軽に手に入るとは。
しかも、やはり浄化魔法がチート過ぎる。
本来ならば、数日掛けて灰汁抜きが必要なのだが、浄化魔法ならば一瞬だからな。
しかし、教皇様達の表情が暗い。
まぁ、バハラキ界では、セリアム界みたいには行かないだろう。
食材を手に入れるにも、一苦労だろうしなぁ。
何よりも、美味い料理を食べたことが致命的か?
だってさぁ、この味を知って、帰ったら毎日ダークマター料理を毎食だぞ。
そらぁ、鬱にもなるわさ。
しばらく歩くと、アサァーラァさんが獲物を定めたみたいだ。
色々と獲物になりそうな生き物は居たんだが、彼女のお目に叶わなかったみたいだな。
彼女が選んだのはシカ。
雌鹿であり、若い個体だ。
テンさんからの情報では、独り立ちしたばかりの若いメスは、肉質が柔らかく美味いらしい。
知って狙うのか?
まさかな。
アサァーラァさんが無詠唱にて魔法を。
ん?
あれ?
うわぁ!コワっ!
雌鹿は、攻撃されているのに気付かず、草を喰んでいる。
しかし、体の下から、極細の針みたいな土の管がね。
地面から一瞬で伸び、身体を貫いて心臓へと。
あまりに細く一瞬だったからか、雌鹿は気付いていない。
心臓から地下へ魔法で掘られた空洞へ血が流れて込む。
魔法で生理食塩水と似た液体が流し込まれ、替わりに血が穴へと。
干からびることはないが、体内の血は全て生理食塩水へと交換される訳で。
そうなれば、当然生きてはいけない。
ドゥっと倒れる雌鹿。
いや、苦痛を感じること無く逝けた訳だから、優しい狩り方なのか?
なんか、暗殺染みているんだが?
だが、完璧な血抜きがなされてた獲物だと言えよう。
次の解体だが、内臓を傷付けずに取り出すだけだ。
うん、容易くされてしまったよ。
よい笑顔ですね。
怒らせないようにしよう、そうしよう!