傀儡
拙い文章ですがどうぞごゆっくり
私は今仕事をしている。何の仕事をしているのかは描写されないのでわからない。第一こんなプロローグを真剣に読む輩など茶碗の中の一粒に等しいだろう。ただ私は仕事をしているないしこれから『仕事をする』。私は刑事だ。刑事という肩書を持った人間が革靴の底を擦り減らし煙草を吸いながら苦心の末愛していた女上司を逮捕する極めて現代的かつ人間ドラマな側面を持つミステリの主人公。今時流行らないぞと作者に電話で愚痴の一つ入れたくなるような古臭く保守的な小説の中の一人。方眼紙の向こうの読者が読みやすいように言葉を崩し時には固く所謂ハードボイルドな人間を演じなければならない。所詮人間の操り人形な私達は今日もまた同じ項目を繰り返さなければならない。痰の絡んだ喉から発声される音は何度聞いても違和感を感じず又私はぶっきらぼうに煙草を咥え猿人のように前屈みに卑屈になって歩かなければならない。或いは今この瞬間から反乱を起こしいっそ全てを投げ出そうか。そうすれば作者の思いの儘の操り人形のそのいとを切れるとそう感じる。本編開始から2分半本来は休憩で上司と話す或いは同僚が不審な行動をしているのを目撃していなければならない時間帯だ。今も周りの雰囲気がこちらに向けられている。今回は今回こそはこんなインクが掠れ手垢のついた物語から脱すると決意したや否や私は立つ。そのまま背筋を伸ばし階段へ向かった。カツカツと革靴の音が木霊する。本来は向かわないはずの場所に向かっている自分が何故だか誇らしく思えてくる。一歩また一歩と上に投げ出した足は私を祝福するように。少し少しずつ光が見えてくる。私は足を早めた。開ける。開けた場所にでた。其処は一度も登場せずアイデアの時点で没になった最上階所謂屋上。私が上司を突き落とすエンディングが構想上はあったが余りに惨たらしすぎると却下された。懐かしさを巡らせながら私は靴を脱ぐ。肌を撫でる風が心地よい。私が一歩を踏み出すと世界が反転した。空に落ちていくような感覚を味わいながらふと、社の窓を見てみた。其処に映るのは液晶の向こうの老若男女の目。あゝそうか。最初から私はー
ぐしゃり