表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
征服のフロレント─全てを失った皇女が全てを手に入れるまで─  作者: 智慧砂猫
第二部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

89/96

第40話「紹介すべき仲間」

「ま、悪くねえ考えじゃ。それで俺様やルヴィには仕事はねえのか? 頼まれりゃあ、なんだってやるつもりでいるんじゃがのう」


 ルヴィはまだ体調が万全とは言えなかった。戦いの後から、少し無理をしたのもあって魔核を繋ぎ止めている何本かの糸が解れてしまい魔力をほとんど失って、できない事も多いがやる気には満ちていた。


 一方、ヤオヒメがどうかと言えば、彼女は元気が過ぎるくらいだが、ほとんどの仕事は木偶人形たちが行うので本人は暇を持て余した。手伝える事があるのなら朝から晩まで、それこそ休まず数日でも働ける。


「う~ん……。実を言って、今は急ぐほどの事もないのよね。ルバルスや他の国々から改めて同盟の提案とかがあったくらいで。その件に関しても会合を行う予定ではあるけれど、まだまだ先の話だし」


 戦いが明けてから時間も経っていない。とり急ぐ必要のあるものは既に片付けてからの出立だったため、彼女たちに頼むほどの仕事は残っていなかった。


「退屈じゃのう。昨日の今日で体がまだ疼いておるというか……かといって木偶人形共の仕事を奪うと、あれは命令変更を認識して動かなくなっちまう」


 暇を与えられても何をしていいのやら。魔界にいた頃は退屈で退屈で眠っている時間の方が長かった気がするが、人間界にいると『何かしていた方が』と思うようになっていた。それなら、とフロレントが手を叩く。


「せっかくだから皇都を歩いてみない?」


 まだまだ復興が進み始めた段階だが、それでも既に以前のような活気に溢れた地区もある。自分たちが作った新たなアドワーズ皇国の姿を実際にゆっくり見る時間はこれまでなく、ちょうどいい機会だと言う。


「アタシは賛成! めっちゃ見たい! シャクラが前々から良い匂いがするって言ってた場所とか気になってたのよね!」


「ああ、美味いパン屋がある。道は俺が覚えてるから案内しよう」


 二ヶ月もの空白期間。それからフロレントの修練に付き合っていたルヴィは皇都の様子など何も知らないに等しい。窓の外から眺める賑わいを羨ましく見ているくらいだったので、すぐにでも行きたそうに目をキラキラさせた。


「そういえば私も出歩いてはおらんな。契約者よ、なんだったか……人間はあれが好きなのだろう? カンコーとか言う奴が」


「そうよ! 観光旅行はとても楽しいものなの。みんなで綺麗な景色を見たり、町を歩きながらお喋りしたり、お茶したり……とにかく、行ってみれば分かるわ。皇都の復興に貢献してくれてる皆のお披露目も兼ねてどうかしら?」


 エスタも興味津々に頷いた。実を言えばシャクラが美味いパン屋を知っていると言った瞬間から行きたくてうずうずしていた。口には出さなかったし、言えば子供みたいだと思われそうで隠そうとするも、バレバレだったが。


「ワタクシはパスですかねえ」


 ゴグマだけが、そう言った。


「どうして?」


「だって図体が大きすぎますからね」


 巨人族は明らかに外見からして異質だ。人間に見た目は近くとも、その巨躯が人々を委縮させてしまうかもしれないと断った。


「なにより、ほら。ワタクシはメイクを落とすつもりもありませんから? わざわざ出て行って驚かせてしまったら我が王たちにも迷惑が掛かるやも」


「そんな事ないわ。私が一緒に行くから平気よ」


 ふんすと鼻を鳴らして得意げな顔をする。自身がアドワーズの皇女として、国の代表として先頭に立てばきっと受け入れてもらえる。それだけの努力は重ねているつもりだ、と。


「それにね、このアドワーズ皇国の復興は私だけでは成し得なかった大きな事なの。あなたたちは私の恩人。つまり皆に紹介すべき仲間なのよ」


 大切な仲間。受け入れてもらえないなら、受け入れてもらえるようにすべき。彼女たちが矢面に立たされ苦境に追い込まれないためには、フロレント自身も行動を起こす必要がある。そのための第一歩にしたいと力強く言った。


「これからずっと未来まで人間界の安全を図るためには、魔族とも連携を組み立てておかなければならないわ。あなたたちがどこまで協力してくれるかは分からないけれど、少なくとも私が生きているうちは絶対と言えるようにしたいの」


 シャクラがテーブルに足を乗せ、椅子を傾けて揺らす。


「だが大所帯でぞろぞろというのも気が引ける。俺はかなり顔が知れているから紹介を受けるまでもない。むしろルヴィを紹介してやりたいんだが」


「俺様もシャクラと同意見じゃ。連れて行くなら日を分けよう」


 魔族を引き連れて皇女が町を練り歩く。あまりにも威圧的な光景だ。大所帯で一度にお披露目とは行かず、徐々に顔を見せて慣れさせた方が良い。そんな意見にフロレントも納得する。


「じゃあ今日はエスタとゴグマについてきてもらって、シャクラはルヴィを案内してあげてくれる? ヤオヒメは明日二人で。どうかしら?」


 全員が異論なしと答える。ゴグマはあまり乗り気にはなれなかったが、それが必要なのであれば致し方ないと受け入れた。


「じゃあ、食事も済んだ事だからさっそく行きましょうか。ちょうど動きやすい服装だし、エスタとゴグマは見た目通りの方がいいでしょう」


「うむ。では行こう。観光が楽しみになってきた!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ