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征服のフロレント─全てを失った皇女が全てを手に入れるまで─  作者: 智慧砂猫
第一部

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第46話「姿なき黒幕」

 気付けば帝都の魔物も処理が終わったのか、空を覆っていた暗雲も千切れて風に消えていく。響いていた雷鳴も、暗雲と共に去っていった。


「オウオウ、終わったようで何より」


「ヒメちゃん! それにエスタたちも!」


 互いの無事を喜んで、ルヴィとヤオヒメは肘をぶつけ合う。


「って事はゴグマは死んだのね。フロレントも疲れたでしょ?」


「私は何もしてないから全然大丈夫よ。ルヴィもありがとう」


「こんなの楽勝!……それより、ちょっと話したい事があるんだけど」


 ルヴィが小さく手を挙げて指を構えると蝙蝠がどこからともなく飛んできてしがみつく。周囲に誰の存在もないかを確かめさせた偵察の蝙蝠だ。


 魔力の痕跡も気配も、シャクラほどの広範囲は不可能でもルヴィが意識して探せば隠れるのはほぼ不可能だ。見ている者はいないと分かって彼女は話を始めた。


「今、アタシが戦ったのはシャクラの知り合いだった奴なの。どうも死霊術で操られてたみたいなんだけど、ゴグマの使う死霊術とは違う種類みたい」


 帝都を喰らってエスタたちに勝負を仕掛けたのは間違いなくゴグマだが、裏で糸を引く何者かがいる。彼の死体を操って道具にするのとは質が違う。相手の意識も保ったままの悪趣味ぶりは、ルヴィの知る限りの者全てを上回った。


「うむ。ゴグマの封印を解いた者も見つかっていない。おそらくは、その者が私たちの本来の敵やもしれん。しかし、こうも痕跡すら残っていないとなると……」


 逃がさないつもりで帝都への侵攻を急いだが、それでも数体の痕跡を得ながら、肝心なゴグマの封印を解いたと考えられる魔族の気配はなかった。


 探そうにも辿れないのであれば手の打ちようがない。現状では『何者かがゴグマの封印を解いて帝都を混沌に陥れるのが目的だった』としか見れなかった。ヤオヒメも同じ結論だったが、少し話を聞いたシャクラが雷鳴と共に現れる。


「最初から俺たち全員の封印を解くのが目的だったと思うがね」


 どこかで拾って来たらしい林檎を齧りながら、彼はそう言った。


「どうしてそう思ったの?」


「お前だよ、フロレント」


 不思議そうに彼女が自分を指差して首を傾げた。他の皆もが言葉を待ち、シャクラは林檎を呑み込んで口端についた食べくずを指で払ってから────。


「スレイヴという魔族の襲撃を覚えているだろう。あれの目的は討ち漏らしたフロレントの始末だ。俺があの時確かめた限りでは、ゴグマの封印は解かれていなかった。そして俺たちがヤオヒメを仲間に引き入れている間に、あれは帝都の民を全て餌にして力を取り戻した。もう馬鹿でも分かる話だ」


 帝都を中心に何者かがアドワーズ皇国を崩壊に導いた。その時点ではまだ完全にゾロモド帝国が魔族の手に落ちていたわけではない。だが既に入り込んでいたのは事実だ。エスタを最初に襲った魔族がいたのだから。


 理由は単純明快。クレール・ディア・アドワーズの血統を根絶やしにする事。エスタたち強力な魔族の封印を解ける稀有な一族。何者かがゴグマを引き入れたように彼女たちとも契約をするつもりであったのなら、万が一にもアドワーズの血統が先に封印を解いてしまわないためにも必要な行程だった。


 だがフロレントは運よく逃げ延びた。適当に何匹か魔族を混ぜていれば大丈夫だと高を括っていたか、人間共の醜悪な部分が邪魔をして、まるで狩りでもするかのように追跡を楽しんだのが原因だとシャクラは推測する。


 結果として最も他の誰かが目覚めさせてはならないエスタ・グラムが、最初に彼女と契約を交わしてしまった。事態を知ったのがスレイヴを通じてであれば、ゴグマの封印だけを解いた理由にも納得が出来た。


「たしかにのう……。ゴグマが魔力を得るには大量の人間が必要だったはずじゃ。奴とてクレールに敗れておる。帝都の人間を喰らったのであれば、つい最近までは人々が普通の生活を送っていた証明になるじゃろう」


 複雑そうな事情にヤオヒメが咥えていたキセルをかみ砕く。


「……気に入らぬな。魔族のくせして、てめえはコソコソ隠れて他の奴に戦わせるたあ、同類とは思いたくねえ奴もいるもんじゃのう」


「アタシはそうは感じないけどね。多分かなり強いと思う」


 足下に転がった頭骨を拾い上げ、優しく撫でながら────。


「ユピトラって別に弱くないのよ。少なくともシャクラがアタシと同様に相手をして育てるくらいにはね。……それが首を落とされて動く死体(ゾンビ)にされてた。あんたたちが相手してた雑魚とは比べ物にならないはず」


 魔力が減っていたとはいえ、シャクラでさえ掴み切れない存在。魔族としても腕が立つのであれば、かなり厄介な魔族になる。


 不安に思ったのはフロレントだけだった。


「いずれにせよ、いつまでも息を潜められるほど今の俺たちも甘くはない。僅かな魔力さえ近付けば見逃す事はないさ。そうだな、エスタ?」


「ああ、我々は既に千年前の力を取り戻している。敵ではなかろう」


 ぐいっとフロレントを抱き寄せて、エスタは自信たっぷりに言った。


「何があろうとも契約者は守り通す。今必要なのは、これからどうすべきかという指示だ。契約者よ。我々はそなたの指示に従おう、命令を下せ」

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