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征服のフロレント─全てを失った皇女が全てを手に入れるまで─  作者: 智慧砂猫
第一部

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第24話「誰よりも強く」

 暗くなる前にログハウスへ戻って来ると、シャクラが暇そうに運び込んだ荷物を漁っていた。床には大量の食料が転がっていて、何をやっているのかと問いただされるなり「料理をしたかった」と気に入らなそうな表情を浮かべて言う。


 宮殿で食べたものが美味しかったからという理由からだったが、食材だけでは何をしていいのか分からず、あれこれ見て帰って来るのを待っていた。


「よく見ればチビも一緒か。封印を解いた気配は感じたが」


「誰に向かってチビっつってんのよ!」


「お前以外にいない。その様子だと契約は出来たか」


 怒って突っかかるルヴィをまるで相手にせず、フロレントたちに話しかける。二人が仲が悪いように思っていたエスタは、なぜ二人がそうまで頻繁に争っていたのかを改めて振り返って察した。


「ええ、私は仲良くなれたと思ってるわ」


「アタシは別に仲良くしたくて契約したんじゃないから!」


「まあまあ、そう言わないで。ごはんの支度をしましょ」


 別荘を使うよう進言したのは、手軽に食べられる保存食だけでは退屈だろうとハシスが気を利かせたからだ。エスタたちはそれを理解できていないが、フロレントは自分で調理するのも好きだったので、使っても良いと分かったときには大いに喜んだ。彼らに美味しい料理を振舞ってあげられる! と、期待して。


「私ね、宮殿にいた頃は料理なんて出てきて当たり前だと思ってたのよ。でも、一度だけふらっと足を運んだ厨房で皆が一生懸命に作ってるのを見て『なんて素敵なんだろう!』って感動したの、すごく」


 じゃがいもの皮を器用に包丁で剥きながら楽しそうに話す。


「エスタ、暖炉に薪をくべてちょうだい。網が置いてあるから、そこでお肉を焼くわ。ルヴィは人参の皮を剥いてから芯を落として食べやすく切って。シャクラは使いやすそうなお皿を出しておいてくれる?」


 誰も彼女の頼みを嫌がらない。むしろ楽しんでいる。エスタは鎧をさっさと脱いで身軽になったら、すぐに暖炉に放り込んだ薪を燃やして、程よくなったらフライパンに油をひいて肉を焼き始めた。


 シャクラはどれがどれやら分からないといった顔をしながら、皿をひとつずつ手に取ってちょうど良い大きさの皿を選んでテーブルに置く。


「ねえ、フロレント。アタシの切った人参はどうすりゃいいのよ?」


「こっちのお鍋に入れて。外に竈があったからスープにしましょ」


「ふ~ん、分かったわ。ね、アタシが持っていこうか。重たいでしょ」


「本当に? ありがとう、じゃあ一緒に行きましょう!」


 陽も落ちてきて森も暗くなってくる。少し見え辛くともルヴィがいれば安心だ。彼女は自身の蝙蝠たちを空に飛ばすと、魔力で煌々と黄金に輝かせた。


「わあ……綺麗ね。どこからあんな蝙蝠たちが?」


「アタシの魔力で創ってあるのよ。だから光らせられるの」


 これで灯りにも困らないだろうと自信たっぷりに、ふふんと鼻を鳴らして指で鼻先を軽く弾く。竈に火を焚くのもお手の物だった。


「助かるわ。最初は怖いなって思ったけど、仲良くなれてすごく嬉しい」


「な、何言ってんだか! まったくもー、お世辞はいいっての!」


 照れて真っ赤になりながら、鍋を置いてふいっと顔を逸らす。褒められるのには慣れておらず、向けられた優しい笑顔に胸を打たれていた。温かい言葉とは無縁に生まれて来たルヴィにとって初めての経験だった。


「……ねえ。あんたの家族ってどんな人間だったの?」


「優しい両親だったわ。いつも笑ってる明るい人たちだった」


 いつだって気に掛けてくれて、国民にも愛される良き王と妃であった。フロレントには掛け替えのない、誰より自慢できる尊敬する両親だった。


 そして最期の瞬間まで親として生き、親として死んだ。


「ルヴィは? 吸血鬼って一人だけじゃないんでしょう?」


「よく知ってるわね。その通り、たくさんいたわ」


 良い仲間とは言えなかった。吸血鬼は自身の存在に強い誇りを持っている。他の種族よりも遥かに優れ、魔族といえども知的な生物としては頂点に君臨すると自負があった。────エスタ・グラムが現れるまでは。


『ルヴィ。お前は他の同胞のように挑んではむざむざ敗北して戻るような真似はするな。期待しているぞ、我らが歴史で最も強い吸血鬼の姫よ』


 たかが数百年自分より長生きしているだけの、エスタに勝てもしないからと最初から諦めて戦いに赴きもしない同胞が首長面をするのが気に入らなかった。だが言っている事には一理あった。自分もまた吸血鬼として誇りを持っていたから。


「今じゃあ、アタシしかいないんだけどね。……あっ、あんたとは違うわよ? どっちかっていうと、全員殺しちゃった側なのよ。無性に腹立たしくて」


 誰も認めてくれない。強さは理解していても、エスタを越えられない事を咎めるばかりで、他の誰よりも戦えた事を称えたりはしてくれなかった。だから殺した。一匹残らず、聞きたくもない呪詛のような言葉を途絶えさせるために。


「そう。……それで、その後はどうしたの?」


「シャクラに会った。アイツはエスタ並みに強かったから」


 ぎゅっと腕を抱くようにして、ルヴィは俯く。


「アイツはすぐ馬鹿にしてくるけどアタシを殺したりはしなかった。ずっと育ててくれたのよ。『果実は熟すまで待つ主義だ』とかなんとか言ってね」


 戦う相手を育てているだけの事だ。分かっている。しかしそれがルヴィを救った。いつか好敵手足りえる存在になるはずだと期待された、と。


「先にクレールに負けて封印されちゃったけどね。でも、まさかアイツまで負けるなんて思わなかったわ。本当に、あんたの御先祖様って凄いわ。……アタシもいつか、せっかく封印が解けたなら」


 輝く蝙蝠たちを見あげて、ルヴィはニカッと笑った。


「いつか超えてやるわ。シャクラをぶっ倒して、エスタもぶっ倒して、アタシが最強になる。もういないけど、クレールよりもずっと強い魔族になってやるんだ。あんたとの契約が終わったら、魔界に帰って、もっと自分を磨くんだから!」

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[良い点] ルヴィちゃんカワイイ…
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