第9話 大切なもの
土日は午前と午後の2回予約投稿の予定です。
日が沈み暗くなったので、時々ライトの魔法球を飛ばして、道なりにキャンプ地に入って行く。
ピンマイクに呼びかける。
「サラ!どこにいるんだ! 大丈夫か?」
「マクダネルさま、私は大丈夫です。いま、キャンプ地の中央広場でプラセンの商人イエルテ商会の方と話をしていたのです。こちらでマクダネルさまをお待ちします」
丁寧な話し方だな~と思っていたら、周りに人が居たようだ。
合図に決めていたライトの魔法球が、さほど遠くない所から、花火のように空へ登っていく。
あそこだ。
あそこにサラがいる。
近づくにつれ、道端にある松明が増え、周囲を明るく照らし出す。
周囲に転がされているのは、倒された盗賊達。
出遅れた私が、伏兵の敵を挟撃した形になったようだ。
ここはキャンプ地。
護衛を連れた商人や冒険者が複数、集団になって守りを固める場所。
襲撃に成功しても被害は大きいだろうに…。
サラと合流すると、その後ろにも捕らえられた盗賊達がいた。
今回の盗賊団は総勢35人。
襲ってきた方向から察するに、西方のアルカンタラから来たのだろうとの事。
「マクダネルさま、盗賊達の処分はいかが致しましょう?」
「は? この者達の処遇は、私が決めるのか…」
「ここはマクダネルさまが支配する地域ですから」
「そういう事か…ではまず、盗賊達の身ぐるみを剥いでいこう」
商人
「おい!盗賊達の装備品を剥がしてくれ」
おそらく、先ほどまで話をしていた商人だろう者が、護衛達に指示している。
「彼が先ほど話をしましたプラセンの商人でございます」
「お初にお目に掛かります。プラセンの商人、グイスガルドと申します」
護衛らしき冒険者が商人に報告しに来た。
「ざっと見たところ、彼らの装備品はほぼ毛皮で、大した物はありません」
「いや、そうではない。私が見たいのは彼らの素性だ」
そういって、裸にした彼らの背中を見ると、ほぼ全員にムチの傷痕がある。
つまり、奴隷だったのだろう。
「身体に傷痕が無い者はいないか?」
冒険者
「そういう事ですか…早速!」
装備品こそ同じような物だが、見慣れない金貨を持った者が2名いた。
ひとりは、キャンプ地手前の丘で、私に切り付けて来た男だ。
「サラ、グイスガルドさんの協力も得て、奴隷達がどこから来たのか、誰の指示なのかを聞き出してほしい」
「はい。分かりました」
そもそも、庶民は物々交換で生活しているし、商人も銀貨と銅貨で商売をしている。
にも拘わらず、盗賊が新しいデザインの金貨を所持している事が不自然なのだ。
金貨の図柄に『Velasco』の文字がある。
ベラスコ金貨か…聞いた事はないが、依頼主と関係があるのだろう。
グイスガルドさんが戻って来た。
「金貨はタラベナ市のベラスコ司祭からもらったようです」
「では、タラベナ市に教会、或いは、大聖堂でも作るつもりなのかな?」
「恐れ入りました。二代目さまはお若いのに、実に聡明でいらっしゃる」
尋問の結果、奴隷達は西方のアルカンタラ村で強制労働刑についていた者達だったのだが、身分証を持った無傷の1人はタラベナ市の奴隷商人だった。
全員に青銅武器を持たせて襲撃に及んだらしいが、それは司祭から『奴隷たちを連れてくるついでに、キャンプ地からも調達できれば良いのだがな…』と暗示が与えられたそうだ。
盗賊団は全員処刑。
そもそも悪事を働いて労働刑になった者達だ。
そんな彼らに、より重い罰を与えるなら、死刑しかない。
20人分の金貨、といっても私の持っているカセレス金貨は大金貨だ。
大金貨4枚を商人に報奨金として渡して、冒険者や護衛に分配をお願いした。
独断で決めた報奨だが、サラは肯定の意味で頷いている。
「先代はこのような直接に関与する事を避けていましたが、上級神はもっと直接的に関与すべき時期が来たと判断されたのでしょう。ですが、大金貨では商人以外は受け取れないですよ」
「あぁ、金貨というと500円くらいの大きさをイメージしてしまうんだ。次回からは小金貨を持ち出す事にするよ。それにしても、先代は戦闘もしなかったのかな?」
「はい。自衛行動以外はなさらなかったのです。私もまさか、ご主人様自ら戦闘地域に入って来られるとは思いもせず、単独行動を取り、申し訳ありませんでした」
「いや……実はサラに言っておきたい事ができた」
「なんでしょう?」
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