第6話 聖域カセレス
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ベッドで寝たきりの生活は7日で終わったのだが、15歳170cmの小柄なサイズに慣れていない事や、めがねが要らなくなった事など、慣れるまでは無理する事なく、屋敷内を散策するに留まっていた。
おおよそサプリメントが必要なくなった1か月後までには、屋敷周辺の事情や基礎的な知識をサラさんから学習し、把握できていた。
地球を参考に作られたこの世界は、1年は360日、1か月は30日、1日は24時間だ。
私やマクダネル氏の体内時計はかなり正確らしく時計が不要なほど。だが、5人の使徒は普通の女性として生み出されているため、時計台と時報の鐘で調整しているとの事。
その後、マクダネル氏に執務室に呼ばれ、会うことができた。
幅2mを超える大きな執務机で書類を見ていたマクダネル氏から、ソファーに座るように案内される。
「この執務室はあなたと私の共同の部屋になりました。私が不在の時は、そちらの机で領主代行として、あなたが決裁をして下さい。となりの役員室は私専用の部屋です。天界とのゲートがありますから」
「わかりました。私には問題はありません」
「基本的に私が人間に直接関わる事はありません。私は天災の防止、つまり、気候変動や地殻変動、隕石の衝突など、天界が関与すべきと判断されたものに影響力を行使するだけです」
マクダネル氏は、自身の役割を説明すると共に、できない事も説明してくれた。
例えば、自身の自衛以外では、犯罪者を殺すという判断を彼はしない。
圧倒的な強者であるため、殺さなくても制圧が可能なためだ。
そのため、抹殺や処罰が必要な時には、使徒の5人が執行する事になる。
この地域は『聖域カセレス』と呼ばれている。
また年号は聖域が出来てからの年数を使用し、今は聖域暦157年である。
マクダネル邸を中心とした半径5Kmほどの空間には、目に見えない結界があって、許可を得た者しか入れない。
これが、最低限の自衛手段になっているようだ。
また、このカセレスには住民はいない。マクダネルが作った学園に職員寮や学生寮があるだけだ。
カセレスの周辺には、5つの衛星都市がある。これら周辺の都市は、人工的に作られた都市ではない。
西へ60Kmの位置にはメンリオ村がある。
森林地域であり林業と狩りで生計を立てている。
馬車で4時間ほどの距離で、これより奥は険しい山で行き止まりになっている。
学園の付属機関である交易所に、木材と動物の毛皮、肉などが持ち込まれている。
この交易所が衛星都市間の物の物流拠点になっているからだ。
東へ45Kmの位置にはトルヒリ村がある。
農耕で生計を立てていて小麦や野菜類が主な産品だ。
同じく交易所に運ばれ、一部は学園の食堂で買い上げている。
北へ80Kmの所にはプラセン市がある。
衛星都市の中でも、最も人口が多いのがこのプラセン市だ。
薬草、および薬類を主に取り扱っていたのだが、東方のタラベナ市の陶器を仲介するようになってから急激に商業規模が大きくなり、盗賊に狙われる事が多くなった。
そのため、聖域の衛星都市に加わったというのが真相だ。
南西へ90Kmの位置にはバダホース村がある。
元々は放牧民が馬の飼育をしていて、川の水を求めて来た集落だったのだが、初代マクダネルが農民を定着させ、村になった特殊な場所だ。
主な産業は馬なのだが、草原にゲルを建てて住んでいるため、納税が長年されていない。
だが、最近では初代の指導もあり、養豚も行い定着が進んでいるようだ。
遊牧民、商人、農家など業種によってバラバラで、自治が確立していない。
南へ60Kmの位置にメリダ村がある。
中心を横断する川があり、それを利用した水運事業が特徴だ。
バダホースと同じく、元はボートピープルで、税の話をすると移動して逃げてしまう。
だが現在は、主にバダホースまでの川を使った運送と商業が主な産業だ。
マクダネルが作った学園は、聖域カセレスを中心とした、これら5つの集落による地域自治を形成し、かつ、自衛のための戦闘力と、計算能力や読み書きなどの基礎教育を提供するために建てられたものだ。
おそらく、私に必要な能力は、自衛のための戦闘力と、この世界に対する理解だろう。
また、『秩序の維持』や『発展の促進』が必要になった…という事は、逆に言えば、秩序が乱れて来た、発展の方向が狂って来たという事だろうか?
そんな私の感想を聞いてサラは言う。
「結論を急がないで下さい。まずはご自身の感覚を大切にしましょう」
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