第57話 実行支配3(ラモス視点)
会議室に戻ると、ロキ・マクダネル氏から一言。
「お待たせしました。回答書をお渡しします」
マリアさんが私の所に回答書を持って来てくれた。
蜜蝋の封があり、中身を見る事はできないが、内容は想像ができる。
「対応に感謝致します。ありがとうございました」
マリアさんが、明日、再びガロボ村まで送ってくれるらしい。
今夜泊まる3階の客室まで案内された。
「夕食の準備が出来ましたらお呼びしますので、お部屋で休憩なさって下さい」
「それとこれ、読んでおいてください」
マリアさんから渡された封筒には、見たこともない真白な紙に何やら書かれていた。
『アルモンテ家との対立は紛争に発展するでしょう。ですがラモス氏は冒険者であり、世間の常識を知るお人だと判断しています』
『私は、ラモス氏や領民が紛争に巻き込まれ、命を落とす事は望みません。できれば多くの人の命が失われる事が無いように、カセレスに助力をお願いしたいのです』
『この提案に賛同いただけるのでしたら、隣の執務室にお越しください』
マリアさんのサインがある。
彼女の提案のようだ。
あの領主のもとでは未来が無い、それは確かな事だ。
部屋を出て、執務室がどこにあるのか、左右を見ていると、右の部屋からマリアさんが出てきた。
お互いの顔を見合わせると、マリアさんが無言で頷いた。
マリアさんが執務室をノックする。
「マリアです。ラモス氏が来ました」
「入ってくれ」
ロキ・マクダネル氏は机上の書類に目を通したまま、マリアさんに促され、ソファーに向かい合わせに座った。
「マリアからあなたを雇いたいと提案があった。詳細はマリアから説明をたのむ」
「はい。承知しました。」
マリアさんから言われたのは、カセレス連合の使徒マリアの偵察部隊に所属する契約との事。今回の仕事は、アルモンテ家をセビーリャから追いだすための工作活動だ。
アルモンテ家の屋敷内には10名ほど冒険者がいるが、基本的には寝床と食事が提供されるだけの居候状態で、依頼ごとに報酬が支払われる。
依頼は大抵、小作人の税の取り立てか、隠している作物の捜索だ。
まともな仕事は、パラメダ港へ行く際の護衛任務ぐらいだ。
「私には女の相棒がいるんです。そいつも一緒に雇ってもらえないか?」
「もちろん大丈夫です」
それから、マリアから作戦に使うムセンキという道具が渡され、少し練習して、作戦内容が説明された。
翌朝、朝食を済ませたマリアと私は、橋を渡り、1日でガロボ村まで走り切った。
その日は、交番内の仮眠室で眠り、翌日セビーリャに入った。
セビーリャには防壁も検問ゲートも無い。
領主アルモンテの屋敷が見える所でマリアさんと別れ、私は屋敷に入った。
「ただいま戻りました」
屋敷の入口で、大きな声で言ったのだが、目線を送るだけですぐに誰も注目しなくなる。
だけど、ロラは私だと気が付くと、すぐに近くに来た。
「無事だったんだね」
心配していたようだが、みんなの前では、この程度が限度だ。
領主さまの部屋をノックする。
「ラモスです。カセレスの回答書をお持ちしました」
「おぉ 入れ」
無言で回答書を手渡した。本来ならすぐに退室するのだが、反応を報告するのも任務なので、直接、領主の顔を見ていたかったのだ。
封筒から真白な紙に書かれた回答書に目をやり
「何だこれは! マドリード勢力? 経済封鎖?…」
困った表情の領主が顔を上げた時、私と目が合った。
「何だ、まだそこに居たのか」
「報酬を…」
「ああ!おい、お前が払っておけ!銀貨5枚だ!」
側に居た商人の息子に支払いを言いつけた。
「えっ、なんで俺が…」
文句を言いながら、革袋から銀貨を取り出し払う息子。
これ以上は、この部屋には居られないか…仕方なく部屋を出た。
まだ昼過ぎか…この町にも時計台はある。
ムセンキでの連絡は3,6,9時の時刻に、と言われたが。
屋敷を出てすぐの宿屋で簡単な食事を注文すると、すぐにロラが私を探してやって来た。
「今夜はここへ泊まるの?」
二人になりたい時は、この宿で過ごすのが、いつもの事だ。
「そうだな…そうしよう」
食事のあと、ロラに、カセレス連合の事や英雄エルシドがメリダに居た事などを話した。
そして、二人がカセレス連合の組織に採用された事も話した。
午後3時を告げる鐘と共に、ムセンキのスイッチを押しながら
「マリアさん、マリアさん、聞こえますか? どうぞ」
ロラが驚いて
「なにひとり言を…『聞こえてるわ、どうぞ』…えっ?」
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