第56話 実行支配2(ラモス視点)
聖域暦 159年7月
メリダ駐屯地までの街道には、同じような売店があり、兵士が立っていた。
メリダに到着すると、川向うに見た事も無い立派な砦が出来ていた。
馬車や荷馬車は渡し船には乗れないので、通常は荷物だけ船に乗せて運ぶ業者と、空になった馬車が迂回する橋が、少し上流の湖の手前にある。
だが今は人工的な石を積み上げた橋が出来ていた。
土台は部分的に水をせき止め、自然石を積み上げて、接着剤でひとつにしたらしい。
詰所に許可証を見せると、木の棒が上に上がり、川向うに行ける交互通行のようだ。
橋は、交番に使われている人工的な石が敷き詰められ、ほぼ平らになっている。
小隊長からは、緊急時以外は、馬を降り縦一列で進むと説明を受けた。
それにしても、技術力が圧倒的に違う。
どうやっても勝てる相手ではない。
砦内に案内され、中隊長と呼ばれる男の元まで案内された。
その男、なんと『英雄エルシド』だった。
直接手紙を渡そうとしたのだが
「人任せにせず、自分で渡した方がいい。返事ももらうのだろう?」
「あぁ そうだな」
教官室のソファーに座っていると、一人の女性がやってきた。
「隊長、マリアです」
「入ってくれ」
「失礼します」
「すまない。こちらはセビーリャ領主からの使者だ。マクダネルさまに手紙と、その回答を希望しておられるのだが、普通では聖域に入れないだろうからマリアさんにお願いできないかと思いまして…」
「なるほど…承知いたしました」
「私、カセレス連合宗主マクダネルさまの使徒、マリアと申します。これより私が、聖域へご案内いたします」
「ラモスといいます。よろしくお願いします」
冒険者ラモスは、とんでもない仕事を引き受けてしまったという思いと、ついに聖域カセレスがどんな所なのか、中に入れるという好奇心で一杯になっていた。
初めて見る低い車高の馬車に乗った。
乗り心地がとても良く、驚いていると、とんでもなく早く動き出した。
早い理由は金属車輪にあるらしい。
聖域カセレスまでは60Kmはあるのだが、マリア嬢とセビーリャでの仕事の話をしている間に、鐘1つ分も掛からずゲートまで到着した。
自分の名と年、冒険者登録証を見せて、しばらくすると入門許可が下りた。
再び馬車に乗り、5分ほどで大きな屋敷に着いた。
年の若い宗主 ロキ・マクダネルさまに領主の手紙を渡して、回答を書面で頂くまでの間、リビングで軽い食事を頂いた。
案内してくれたマリアさんから
「敵対状態であるマドリード勢力の領主アルモンテ家に対して、カセレス連合が譲歩する事はないでしょう」
と言われたのだが、状況が全く理解できなかった。
詳しく話を聞くと、カセレスに近いミアハダス村やサンタクルス村が襲撃を受け、マドリード勢力とは敵対関係にあるとの事であった。
そしてセビーリャは、マドリードのフェルナンデス皇帝から金貨をもらって、その勢力下に加わったという話は、有名な話だ。
「なるほど…やっと状況が見えてきました。セビーリャからすると突然に見えるが、カセレスからすると、以前から実害があって、軍事力強化を図ってきたのですね?」
「そうです。ここで働くメイドのルシアも、その被害者の一人です」
「それにしても、セビーリャまでの8つの村を実行支配したのは、どういう理由で?」
「彼らは自分達で自給自足している善良な農家だと判断したからです。ですがセビーリャは違いますよね?」
確かにセビーリャは、アルモンテ家が支配する大規模農場。領主家以外はすべて小作農家だ。商人もほぼ一族の縁戚者が独占している状態。
税率は3:7で、食べていくだけしかできない。
ただ、小作人に学が無いから、不満はあっても従っているだけだろう。
ラモスの故郷、ムルシアもそうであったために気づかなかっただけだ。
パーティーメンバーのロラと一緒に、護衛として雇われた時点で満足したのは、発展の方向が見えなかったからだ。
今なら言える、『家庭を持とう』と。
「ラモスさん」
「あっ、失礼しました。ちょっと考え事をしてました」
「そろそろ回答書が出来ている頃でしょうから、会議室にもどりましょう」
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