表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/61

第55話 実行支配


聖域暦 159年6月


メリダ駐屯地内の試験農場では、野菜の収量がほぼ2倍の大豊作になっていた。

同時期に肥料を使い始めた防壁外の大規模農場でも、麦の生育は間違いなく豊作だ。


こうなると、兵士は全員で域外農場の収穫作業にあたる事になるだろう。


エルシド中隊長は元々農民だから、この辺りの人員の割り当てが上手だ。

専属メイドのルシアとは、秋には結婚の予定だが、両者とも家族はもういない。

なので、内々の挙式にするそうだ。



マリアを中心に進められたカセレス連合の南部地域領土拡大作戦は、順調だ。


時期が少しずれるが、セビーリャまでの8つの集落も同じく、豊作の模様。

こちらは収量が増えた分だけ買い取る契約なので、カセレス硬貨での支払いになる。

このため貨幣の使い道を作らなければ、この契約に魅力がない。


そこで、交番の横に売店を併設する事にした。

再び、工兵部隊とコンクリートブロックの登場だが、前回とは違い荷馬車は足回りが改良されている。


車軸と荷台の間に板バネを付けて、上下動にクッション性を持たせた。

更に、母の3輪自転車の前輪を外し、初代にコピー品を作ってもらったのだ。

ただ、重い荷重には耐えられないので、4輪使い、曲がるしくみが無い。



出来上がった商店には、プラセン市の工業製品(陶器、農機具)、液体肥料、薬、練炭コンロと練炭、学園で生産された衣服、下着類などが置かれた。

これらの物は、カセレス貨幣でないと購入はできない。


徐々に貨幣経済が8つの集落に浸透したころ、セビーリャから液体肥料を買いに来た者がいた。


「肥料というものがあるそうだが、それを買いたい」


「え~ あなたはこの村の方ですか?」


「いや、私はアルモンテ家の者だ」


「では、お売りできません。この売店の商品は、ここガロボ村の者しか買えません」



「な、なにを言っているのだ!」

「セビーリャ領主アルモンテさまが買うと言っているのだぞ!」


怒鳴り声が響き、あわてて交番から2人の応援が駆け付けた。


「おい、どうした!」



ここセビーリャに最も近い8番目の交番には、折り返し勤務の2人が朝やって来るため、この交番は4人体勢で運営されていた。


「セビーリャから肥料を買いに来たんだと…」


使いの男は、剣を抜いた兵士に挟まれ、完全にビビッていた。


「君達は一体何者なんだ!領主さまが買い求めに来たと言うのに、なんだその態度は!」



「はっ 領主さま? このガロボ村はカセレス連合が実行支配している地域だぞ」


領主の使いは、やっと今の状況に気が付いた。

この村は占領されたのだと。


「こんな事をして、ただで済むと思うなよ!」


啖呵を切って、荷馬車をUターンさせて戻って行く領主の使い。

荷馬車の後ろには小作人のような男が2人乗っていた。




「ただいま戻りました」


「ご苦労であった。いかほどの値段で売っておったのだ?」


「それが、アルモンテさま、大変な事になっております!」


「どういう事だ?」


「ガロボ村がカセレス連合に占領されていたのでございます」



「何だと! 詳しく申してみよ」


変な服装の兵士3人に挟まれ、剣を向けられた事。

その際に言われた言葉を思い出す。


「ガロボ村は、カセレス連合が実行支配している」と…



『実行支配』という聞き慣れない言葉。

カセレス連合…分からない事が多過ぎる。

ここ2年の急激な変化から取り残されていたのだ。


そうだ、マドリードの皇帝から使者が来た時に雇った、護衛の冒険者に聞いてみよう。


「ラモスとロラを呼んでくれ」


護衛の冒険者ラモスは領主の館にやってきた。


「おい、カセレス連合とは、どれほどの者なのだ?」


「はい、昔より聖域カセレスという地域がありまして、確か30年ほど前に周辺の都市がカセレスの保護下に入り、地域連合になったと聞きました」


「行った事はないのか?」


「はい、行った事はありませんが、貨幣の発行元として有名です。摩耗、破損した貨幣を交換してくれていますから」


「そうなのか…その領主に手紙を届ける事は可能か?」


「はい、可能だと思います」



ラモスはカセレス連合へ領主の手紙を届けるため、セビーリャを出て北へ馬を走らせた。


1時間ほど走った20Km先にガロボ村は有るのだが、既に街道には柵が置かれ、封鎖されていた。


「とまれ!」


ラモスは馬から降りて、見たことがない装備の兵士に聞く


「通れないのか?」


「いや、通れないのは荷馬車だけだ。ただ、この先はカセレス連合の実行支配地なので、身元の確認をさせてもらう」


ラモスが冒険者の登録証を見せると、兵士は名前をボードの上に置かれた真っ白な紙に記入していた。


「カセレス連合の領主への手紙を預かっているんだが、誰に渡せばいいんだ?もちろん返事も頼まれているが」



「えっ、そうなのか。では、少し待ってくれ」


その後、多くの兵士の中から『小隊長』と呼ばれた男がやってきて、メリダの拠点まで同行してくれる事になった。




お読み頂き、ありがとうございます。

『この作品を読んでみよう』とか、『面白そう』とか思われた方、

是非、ブックマーク登録や、いいねボタンをお願いします。

励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ