第54話 セビーリャ
聖域暦 159年2月
マリアは、ベージャとバダホースで悪党ルイスとその一味を処分したあと、メリダの駐屯所に立ち寄り、初代へ報告の手紙を出した。
その際にラウラからアップグレードの件を聞いたのだが、あまり関心は湧かなかった。
むしろ、スサーナがグラント商会の息子と結婚して、ブルゴス領に留まる事で常に情報収集を続ける意味は、これからこの地の変化が大きいと予測しての行動なのだろう。
いわば定点観測。新しい方法を見つけたようだ。
マリア自身は、メリダからコルドバまでの間、いつものように商会の馬車と共に移動し、摩耗貨幣の交換や香辛料の売買を行って来たのだが、東部地域とは違い、緊迫感や目新しい情報は全くなかった。
コルドバ領は小さな町だ。
防壁は無く、領主邸でさえ普通の屋敷。
コルドバの領主兼司祭のマヌエルに面会を求めると、すぐさま許可が下りた。
捕虜になって以降、カセレスを絶対的存在として見ているという領民の噂は本当だった。
「東方からのフランク王国勢力やフェルナンデス皇帝勢力の侵攻があった場合を考えると、町の防壁建設は必須かと思いますが…」
「そうか…東部地域はそんな状況なのか…。しかし、手持ち資金があまり無いのだよ」
「それでしたら、私がマクダネルさまに資金融資の書面を書きましょう」
「おお、助かる」
「それとカセレス学園に町民を入学させ、新しい武器も手に入れましょう」
そんなアドバイスを行い、最低限の防御態勢を書き出し、話し合った。
王国勢力に、ここコルドバ領を抜かれると、南部のセビーリャや港町バラメダまで危なくなる。
そんな事にならないように、布石を打っておくべきだと考えたからだ。
スサーナが北部の守りを担うなら、マリアは南部方面、それも港を手に入れたかった。
コルドバからセビーリャまでは馬車で1日。だがメリダからセビーリャまでは馬車で3日掛かるが、パラメダ港までは、流れる川を船で行けば1日と陸路より早い。
そんな地理的に有利な港町でもある。
セビーリャの領主アルモンテ家は、この温暖な地域を長年に渡って治めて来た豪農一族である。気候の恩恵を受けて、自給自足が当たり前の欲も徳もない平凡な農家。
フェルナンデス皇帝からもらった金貨でさえ、交易もろくにしていないため、使い道もなく、金庫に眠ったままらしい。
最も近い勢力圏が200Km離れたメリダ村なのだから、交易がなかったのも頷ける。
メリダまで戻りながら、途中にある8つの集落を調べたが、いずれも自給自足の集落だ。
マリアはメリダ駐屯地に戻り、8つの集落をカセレス連合の勢力に取り込む計画をロキ様に相談した。
計画は、連合軍の小隊単位(20名)で警備行動と称して集落を訪れ、名簿の作成と肥料の営業を掛け、交番を村はずれに設置する。
最近開発に成功したコンクリートブロックを交番建設に使うのだ。
コンクリートブロックは、小型で堅牢、可搬性に優れている。
連合軍の工兵部隊の初仕事である。
簡易砦の建設や道路建設にコンクリートブロックは最適だ。
各村の村長を訪れ、村民にも説明をした。
肥料という畑の栄養を補給する事で、収量を増やせる事。
増えた収穫分は連合軍で買い取る契約だ。
肥料の効果を確認する試験なので、肥料の費用は無い。
治安維持のための駐屯所(交番)を建て、兵士2名が警備を行う。
8つの村からは、例外なく歓迎された。
実際に工兵部隊を動員して、交番建設を開始した最初は良かったのだが、いかに小型で可搬性に優れたコンクリートブロックであっても、メリダ駐屯地からの距離が離れるにつれ、資材の運搬時間が掛かり、欠けるブロックも出て来た。
工兵部隊は、1週間でなんとか8つの集落へ交番を建設しつつ、馬車の改良にも手を付ける事にした。
運用は、6畳ほどの広さの交番に、交代で2名が駐在し、警備を行う。
交番勤務のローテーションは、メリダ駐屯地から朝2名が出発。
次の交番までの間をチェックする。
この玉突き移動によって、瞬間的には4名が交番に滞在する事になる。
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