第52話 カセレスの技術水準向上策
聖域暦 158年10月
スサーナとラウラの報告から、フランク王国の技術が進んでいる事が分かった。
また、急遽帰還したアナの報告では、クロスボウも実用化している。
カセレスも技術レベル向上に本気を出さないと危ない。
一方の軍事力は、カセレス連合軍の部隊編成として、指揮官にエルシド、学園の教官として元戦闘団員4名がいるので、彼らを活用する方針だ。
そもそも学園では盾+剣2名と槍と弓の4人を小隊として組ませていた。
現状の武器はステンレス剣とコンバットナイフしか用意出来ていない。
だが、防具はヘルメット、防刃ベスト、靴下、ブーツが用意できたので良しとしよう。
エルシドと元戦闘団員4人を集めて、現有の装備品を見せ、明日からの訓練と木材を使った防壁の建設を指示した。
アナの報告では、バルセロナ領では、既に数年前に領主ハイメ家と、フランク王国マルセイユ領の貴族との間に政略結婚が成立しており、実質的にはバルセロナ領の経営は、嫁のホノリウス家の家臣達が仕切っているらしい。
そして、今回問題のサラゴサの私兵は、バルセロナから来た兵だという事だ。
つまり、南部の海洋都市バルセロナ領とサラゴサ領は、既にマドリードの戦闘団では取り戻せないだろうという推測が成り立つ。
政略結婚によって落とされたビトリア領、バルセロナ領、そしてサラゴサ領のいずれの地域でも、手押し井戸ポンプは、他の領地に販売する意思は無いようなので、カセレス学園でも新学期の新しい研究テーマとした。
教材としての井戸ポンプは、買い取りを拒否されたリサイクルショップの百科事典に記載されている構造説明をそのまま使う事にした。
特別に難しいものでもないので、すぐに生産できるようになるだろう。
鋳物の生産技術は、こういう時のために培ってきたのだ。
プラセン市に戻る卒業生は、磁器に関する知識と経験を積み、量産も近い。
トルヒリ村の卒業生は、練炭コンロや練炭に関して十分な研究と経験を得ている。
新規に加入したミアハダス村も、5組の若いカップルを得て、精力的に開拓が進んでいると聞く。
そして何より、新3年生のほとんどは、養成学校入りを希望している。
その理由は装備品の性能の良さが、噂になって拡散されているのが原因らしい。
6割が前線、4割が後方だとしても、年末には軍の部隊として5人で分隊を編成し、4個分隊で小隊としたい。ここへ教官を小隊長とし、4つの小隊の上にエルシドを置き、中隊とする構想だ。
そのほか偵察小隊、衛生班が編制できるだろう。
課題は弓隊の編制だが、これだけはやってみないと分からない。
遠距離といえばクロスボウが定番だから、我々は鋼鉄の板バネを研究しよう。
それにしても、フランク王国の貴族たちは、政略結婚という手段と本国で稼いだ資金を使い、こちらの領地を得ているが、決して黒字とは思えない。
そもそも、バルセロナ領やサラゴサ領も、庶民レベルでは物々交換の自給自足だったはず。手押し井戸ポンプを導入しても、農業生産量が劇的に増えるわけではないからだ。
初代さまにお願いの申請書を提出するため、執務室に来ていた。
「硝酸アンモニア(窒素肥料)がほしいのか?」
「はい」
硝酸アンモニアはハーバーボッシュ法という製法で作られ、地球では20世紀以降の急激な人口増加の要因になった、と言われた畑の作物に即効性のある肥料だ。
『アンモニア=N2+3H2、一酸化窒素=4NH3+5O2、硝酸=HNO3+NO』
「ここまで作り方が分かっているなら、自分達で作れるだろう? なのにどうして…」
「実は、硝酸アンモニアは無煙火薬の原料になるんです」
「なるほど…自分達で製造すると、その製法が漏れ、それが無煙火薬の開発に繋がっていくという事か」
「その通りです」
「そう言う事なら、承知した」
一方、学園で自分達で研究するものもある。
石灰石、粘土、けい石、酸化鉄原料を粉砕し、溶融炉で化学反応を起こさせて水硬性化合物にする。
セメントの研究だ。
1450℃まで上げないと化学反応は起きない。
簡単ではないだろうな。
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