第51話 カセレス連合軍メリダ駐屯所
聖域暦 158年7月
談話室での会談のあと、既に2週間が経ったにも拘わらず、スサーナはまだ屋敷にいた。
きっかけは、結婚のあとの夫婦の営みについて教えてほしいと、ロキに迫ったからだ。
「結婚が決まっている相手にする事じゃないだろ」
「ロキさま、結婚が決まっていない相手なら、いいという事ですか?」
「いや、そういう意味じゃなくて…」
トランクルームに入れたまま運んで来た段ボールの中から1つのDVDケースを取り出す。
「ディスプレイ付きのプレイヤーがあれば、何とかなるのにな~」
住民登録に使っているノートPCには光学ドライブが付いているのだが、敢えてそれを隠しているロキ。
(あれで再生されたら、仕事に使えなくなってしまう…)
ロキのすぐ後ろまで来ていたスサーナが、DVDケースを奪い取り
「これで何とかなるんですか?」
そう言いながら、ケースを開けてDVDを取り出した。
投げ捨てられたDVDケースをサラがキャッチする。
ケースにはジャケットが裏返しに入れられていて、普段は真っ白なのだが、ケースを開けるとジャケットが弛んで、表側の印刷面がチラリと見えたサラ。
「なんですか、これは!」
サラがケースからジャケットを抜き出して、仔細チェックしたあと、破いてしまった。
(よくやった、サラ!)
「その円盤には、円周上に0と1で構成されたデータが並んでいて、そのデータを読み取って映像に復元するんだけど、その方法は難しくて私には分からないんだ」
「そうですか~」
と残念そうにしながら、DVDを執務室の初代さまのところに持ち込んだスサーナ。
初代は、占い師として地球にいた時に、そういう類のDVDを見た事があるらしく、構造にも興味があったそうだ。
そして1週間が経った頃
「解析が出来たので、画像データとデコーダープログラムをインストールしてやる」
そういって、3人の使徒をアップグレードしたらしい。
それから1週間の今日まで、サラとスサーナ、ラウラの3人で脳内画像を再生しながら、練習を繰り返してきたらしい。
「最後にロキ、スサーナの練習相手になってあげなさい」
という初代さまのご意見に
「あれはフィクションの作品だからな!同じように思うなよ!」
と注意だけはしておいた。
ま~ これでスサーナが出発するなら、いいか…
連合軍官舎が完成し、エルシドと専属メイドのルシアは既に引っ越しが完了していた。
また、学園の3年生98名のうち、86名が連合軍養成学校の宿舎に移動していた。
12名は成績優秀者なので、事前に各都市の幹部候補生として内定している。
養成学校の正式運用に伴い、家事メイド3名と郵便部隊、試験農業の3軒も異動させた。
屋敷に残ったのは、厩舎と郵便を担当するゴンザレス一家と、メイドのコンチ、そして輸送部隊のニコライとマルワン親子であった。
聖域暦 158年10月
コルドバ教会の司祭、フアン・マヌエルから、ロキ宛に手紙が届いた。
どうやらメリダの連合軍駐屯所の基礎訓練が終わり、正式に発足した事を知ったようだ。
手紙には、マドリードのフェルナンデス皇帝から、都市サラゴサに侵攻する際の援軍を送ってほしいとの要請を受けたため、これを拒否し、カセレス連合軍に加入したいとの事であった。
手紙の到着とほぼ同時に、元戦闘団の2人と一緒にアナが戻って来た。
「ロキ様、ただいま戻りました」
「お疲れ様…というか、手紙もなく帰還と言う事は、緊急事態だったの?」
「はい、サラゴサ領の情勢が不安定になってきたので、戻ってきました」
「と言うと?」
「ビルバオ領と同じく、アグリッパ家にもフランク王国から有力豪族の娘が嫁いで来ており、同様の手口で領内に経済支援が入ってきました。」
「ただ、ビルバオ領の時とは違い、私兵を60名ほど連れて来たのです」
「それは準備のいい事だな」
「しかも、この婚姻に反対をしていた領主家の叔父にあたる商人を、クロスボウという武器を使って、叔父の護衛や冒険者達を一瞬で殲滅したそうです」
「これらお伝えしたい事がたくさん有りますので、報告書にまとめて提出したいと思います」
「分かった、よろしく頼む」
コルドバのマヌエル司祭には、カセレス連合への加入はOKするが、残念ながら、連合軍は体力強化の基礎訓練がおわった段階であり、まだ、コルドバの防衛に加勢できる状況にない事を伝えた。
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