第49話 メリダ村の改修
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聖域暦 158年5月
スサーナがビトリアでグラント商会の次男と結婚の話を進めていた頃、ロキはサラと共にメリダ村の改修に着手していた。
カセレス連合軍の駐屯地として整備するため、宿泊施設の住民と農業従事者を残し、バダホース村へ移住させたのだ。
そもそも納税から逃げ回っていたボートピープルがメインであり、税を取り立てると逃げてくれるのだから、手間が省ける。
まず優先するべきは連合軍官舎と司令部、そして訓練場。
置いていかれた船やいかだを改修して、10m級の運搬船の建造を目指す。
工事従事者は一般にも募集したが、主に連合軍の養成学校の生徒達が主役だ。
宿舎は宿を借り上げている。
女将はうれしそうにしているが
「これからは、しっかりと税を取るからね」
というセラの言葉で、少し顔色が変わる。
悪い事をしていたという自覚はあるのだろう。
しばらくすると、逃げた筈のボートピープルが、川魚を旅館に売りに来た。
「いや、私は漁師です。はい」
「お前達からは、都度、3分の税を取る。その代わり堂々と売りに来なさい」
「へへへ。承知しやした」
女将にも、事前に買う量を漁師に伝えておけば良いのではないか、と言ったのだが、肝心の漁師のまとめ役を亭主がしていたそうだ。
で、その亭主は今回の騒動で、宿の金をごっそり持って、若い女と一緒に逃げたらしい。
どうやら、自由人のくらしが気に入っていて、真面目な暮らしは性に合わなかったのだろう。
女将も、そんな2人の事は気付いていたそうだが、子供もいない事もあり、放置していたそうだ。
だが、今は毎日10代の若い青年や女子が、昼間は砦建設に、夜は宿で騒いだり風呂の覗き事件を起こしたりと、てんやわんやの生活が楽しいらしい。
建設材料の運搬と工事の手順などは、サラが考え手順書にしているし、ラウラは医療班のリーダーとして養成学校で薬の作成を教え、作ってもいる。
そうして約1か月後
官舎や指令部、訓練施設が出来たころ、スサーナが豪傑エルシドを連れてカセレス屋敷に戻ってきた。
ロキ、サラ、そしてラウラもメリダ村に行っていたため、執務室で初代マクダネルが対応した。
「只今もどりました」
「ご苦労様でした、スサーナ」
「こちらはビルバオの英雄エルシドさまです」
「エルシドです。スサーナさんからのお誘いに甘え、カセレスに連れて来て頂きました。よろしくお願いします」
「マクダネルです」
「どうぞこちらに、お掛けになってください」
メイドのルシアがお茶を入れる。
もうすでに、メイドとしての所作が身に付いていた。
マクダネルがお茶に口を付けると、全員がお茶を飲み、一呼吸入れた。
「英雄エルシドさまのお噂は、以前よりお聞きしておりました」
「噂通りの実直なお方のようですね」
「いえいえ」
少し間をおいて、どう答えたらいいのか分からないまま生返事をするエルシド。
「実務は息子のロキが担当しているのですが、今、メリダ村に出ております。すぐに使いをやりますが、戻るまで、この屋敷でゆっくりしてください」
「はい、ありがとうございます」
「ルシア、エルシドさまを客間にご案内してさしあげなさい」
「はい」
エルシドは、3階の客間に案内され、部屋のトイレ、浴室の説明を聞いたあと、お茶を入れるルシアに、ロキ・マクダネルの事を尋ねた。
「ロキ・マクダネルさまとは、どんな人なんですか?」
「え~と、今は16歳で、学園の3年生でもあり、連合軍養成学校の責任者でもあります」
「そうですか…ルシアさんは、何年前からここに?」
ルシアはサンタクルス村出身の14歳。
村の薬師をしていたお婆さんに育てられた。
山に薬草やキノコなどを取りに行き、持ち帰って調理をする。
足らない物は村の者どうし、物々交換。
そんな自給自足の暮らしを、お婆さんと一緒にしていた内気な娘。
だから、採集も出来るし、調理も、洗濯も、薬も作れる。
そんな村にマヌエル司祭と戦闘団がやってきて、村長の家に上がり込んだ。
コルドバはとても恵まれた町で、新規に入植者を募集しているという話だ。
若い男女が5組ほど、入植を希望したのだが、希望しない者まで執拗に絡み、悲鳴が聞こえるようになった。
お婆さんに言われ、いつもの山に逃げ込み、坑道あとの備蓄場所に隠れた。
日が暮れてからも、どんどん人数は増え、村で戦闘になったと聞いた。
いつのまにか、涙があふれ出ていた。
「すまない、悪い事を聞いてしまった…ルシアさん、もういい。もういいから」
エルシドはたまらず、ルシアを抱き締めていた。
ルシアは、あの日以来、初めて心の痛みを表に出し、エルシドの胸を借りて泣いていた。
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