第48話 ビルバオのエルシド氏2
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残った50名の戦闘団の中には、マドリードの行政経験者がいた。彼らは皇帝の計画通りに行政を進めていく。経験が無いのは港湾の税関業務だけだが、陸の通行税と同じでも良かった。
エルシドは司祭ではあるが、実務は以前からの教会関係者が取り仕切っているし、彼らも実務を手放すつもりはなかったが、司祭を最高権力者にしておくことで、フェルナンデス金貨の予算がもらえるため、問題はなかった。
戦闘団の行政経験者たちは、領主が居なくなってから、城の領主館に居を移し、司祭は領主兼司祭となった。しかし、行政も彼らが行っており、エルシドに出番はない。
そんな所にギルドの紹介書類を持って、カセレス連合のスサーナが訪ねてきた。
エルシドはフェルナンデス皇帝の事も良く知らないし、カセレス連合も知らない一介の戦士だ。
そこに現れた柔らかい印象の美女スサーナ。
「初めてお目に掛かります、英雄エルシドさま。私、カセレス連合マクダネル宗主の使徒をしておりますスサーナと申します」
エルシドは久々に『英雄』と呼ばれてうれしかった。
そう、領主や司祭など、本当の自分ではないと、不満を感じていたのだ。
逆にスサーナには英雄としてのデータしか無かった。
スサーナはカセレス連合の歴史を紹介し、エルシドには過去の戦いの話を聞いた。
ふたりは意気投合し、昔話をしてあっという間に時間が過ぎていった。
そして、エルシドの故郷の変わりようを悩みとして聞くうちに、隣国フランク王国の技術力を脅威として認識し始めていた。隣国とフェルナンデス皇帝勢力との軋轢。
だが、どちらが善でどちらが悪というわけではないし、ここへカセレス連合が第3勢力として加わるのか?
スサーナにとって、頭の痛い時代が迫ってきていた。
「エルシドさま、私達カセレス連合のマクダネル宗主にお会いになりませんか?」
「えっ、あなた達の宗主に会って、どうするんだ?」
「そこには村人たちに読み書き、計算を教える学園があって、自衛のための戦闘術も教えているんです」
スサーナは学園が無料で近隣村民に教育を施し、職業訓練もしていて、そこでの教官を求めている事を伝えた。
いくつかの村が戦闘集団に襲われ、自衛手段を持たない者達の悲劇的結末と、被害者を雇い入れたマクダネルの話を聞いて、エルシドは自分にもまだできる事がたくさん有る事を知ったのだった。
「なるほど…どうせここビルバオには俺の居場所なんて無いんだし、せっかくだから、カセレスへ連れて行ってくれないか?」
「ありがとうございます。でも、カセレスでは英雄ではなくて、単なる教師ですけど…」
「いや、それでいいんだ。それでいい」
ビルバオの城壁を出た2人の格好は、まるで狩りに出掛ける冒険者だ。
だが、そんな見た目だからこそ、誰の目にも止まらなかった。
エルシドは、ビルバオから故郷ビトリアへは寄らず、まっすぐに南下してブルゴスに入り、そこからは馬車でバリャドリード、サラマンカを経由してプラセン市に入った。
その間、スサーナが行うカセレス硬貨の摩耗交換を見て、フェルナンデス金貨やフランク王国金貨との違いを知る。
またカセレス連合の加盟都市、プラセンの陶器製造や活気のある町中に入り、同じ5万人規模のビルバオを、栄えていた時代を思い出していた。
だが行き来する人たちの表情は、安心しているような顔ではない。
なんだか追われているような、あわただしくて、活発なのだ。
「この人達にも、何か不安はあるのか?」
「あ~ マドリードの教会勢力が、隣町のタラベナ市を占領したからだと思います。え~と、ベラスコという司祭だけど、知ってますか?」
「いいや、会った事も無ければ、聞いた事も無い。ま~司祭と言っても私は単なるお飾りだったんだけどな」
「ベラスコ司祭は数十人の戦闘団を連れて来て、あっという間にタラベナ市を占領しちゃって、今はベラスコ金貨を使って教会を建てているそうです」
「ベラスコ金貨…初めて聞いたな~」
「ベラスコ貨幣は金貨だけだから、今は銀貨が主に使われているみたいです」
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