第46話 ビルバオの政変
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どこの都市にも冒険者ギルドがある訳ではないが、港を有するビルバオ市はバスク州の州都とも言える規模の市であり、流動人口を入れると5万人を超えるだろうと思われる。
最も大きな特徴は、海運によってポルトやリスボンとも交流があるし、隣国フランク王国とも交流があるだろう事は想像に難くない。この海運に目を向けなければ、単なる田舎の3万人程度の都市に見える。
記録データの連鎖から、領主の奥方はフランク王国から嫁いできた豪族の一族だったはず。
「いらっしゃいませ。どのようなご用件でしょうか」
「カセレス連合のスサーナと申します。ビルバオ市の現状についてお聞きしたい事がございます。どなたか詳しい説明が聞ける方はおられるでしょうか?」
上品な言葉使いに、同行している冒険者の二人が驚いた顔をしているのを不快に感じながら、受付の対応を待った。
思った通り、ギルドは都市とは独立した組織のため、管理者の異動は無かったようで
「上司に聞いて参ります。しばらくお待ちください」
「わかりました」
デービッドとマルタに、宿を探して2人部屋を二つ確保するように依頼をして、二人をギルドから追い出した。
このあと、ギルドの幹部2名と応接室で話をした。
ひとりはギルドマスターで、もうひとりは財務を担当するサブマスターだった。
自己紹介のあと、用件を聞かれた。
「ビルバオ市の領主がエルシド氏に変わった事の影響を調べにきたのです」
「あぁ、やはりその件でしたか…何から話せば良いのやら…問題が多過ぎまして…」
ギルマスが口を開いた以降、サブマスターが続けて
「唐突で申し訳ありませんが、摩耗貨幣の交換をしておられるという噂をお聞きしたのですが…」
「はい。カセレス貨幣に限り、摩耗した貨幣を新しいものと交換していますけど…この地域は主にフェルナンデス貨幣が流通しているのではないのですか?」
「はぁ~、エルシド氏が赴任される前までは、カセレス貨幣とフランク王国貨幣が半々だったのですけど、エルシド氏が赴任されたあと、フェルナンデス貨幣が大量に入って来まして…」
ギルマスが話の続きを引き受けて
「領主がビトリアに逃げ、役人やその関係者もほぼ全員がビトリアに移動してしまったんだよ。当然、使われていたフランク王国貨幣は流通しなくなってね」
「バスク州の商人たちは、手持ちの貨幣を域内で安全に使用できるカセレス貨幣に変えて、他の都市に逃げてしまったよ。残ったのは、このビルバオ市の商人と摩耗したフェルナンデス貨幣さ」
「だが、摩耗したフェルナンデス貨幣は誰も受け取らないから、域外との交易が物々交換になっているのさ。全く、何十年も昔に戻った生活だよ」
ギルドの運営にも影響は大きいようだ。
「では、今港に泊まっている船の荷物は、どうなるのですか?」
「この街を素通りしてビトリアに行くのさ」
サブマスターが再び口を開く
「フェルナンデス貨幣を何とかする方法はないでしょうか?」
「重さで処分するには交換比率が悪過ぎますから、いっそマドリードに行って物と交換するしか方法はないでしょうね。さすがに発行自治体で使えない事は無いでしょうから」
「なるほど…試してみるか…」
サブマスターが席を立ったのを見送り、質問を続ける。
「噂ではエルシド氏にはバスク州だけでなく、レオン州の自治権を得たと聞いていたのですけど、金鉱山の周辺にはブルゴスに赴任して来たロメーロ氏の戦闘部隊が居ましたが…」
「あぁ、こちらもその件は把握しているよ。ロメーロ氏は、エルシド氏に『手伝い』だと言っているらしい」
「手伝いですか…」
「確かに今のエルシド氏には、レオン州のレオンやバリャドリード、サラマンカに兵を送るどころか、カンタブリア山脈でさえ実行支配できる余力は無いからな…もしかすると最初から英雄エルシドと領主の間にヒビを入れたかったのかも知れないな。今ならそう思えるよ」
『英雄エルシド』か…そういえば過去の戦闘で活躍した人物と同じ名前だった。
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