第44話 スサーナの決意
土日は午前10時、12時、午後は15時、17時の計4回予約投稿の予定です。
今回の話は文字数が2700字を超えています。
なぜそうなったのか?
記憶はありませんが、読み返した後で修正したのだろうと思います。
すみません。
「今回こちらに来たのは、フェルナンデス家の縁戚、ロメーロ氏がブルゴス町の領主になったという噂を聞いたからです。実際、どうなんです?」
「あ~ それは事実だ。以前から町の世話役が代官として税を集めて、フェルナンデス家に納めていたのだが、なぜか突然、縁戚だとかいうロメーロ氏がやって来たのだ」
「私達は、ビルバオ市のエルシド氏がレオン州の領主だと思っていたので、驚いたのですが…」
「いや、我々の認識では、エルシド氏は自治権を得て、税を納めなくてもよくなったというだけで、要はカセレス連合の衛星都市の真似をしているだけだと思いますよ」
「そうですか…だからと言って、ロメーロ氏がレオン州の領主などとは、誰も認めないでしょうね」
「それはその通りですね。レオンやバリャドリード、サラマンカなどは、フェルナンデス家に守ってもらう必要など有りませんからね…」
「会長のところは、レオンやバリャドリード、サラマンカにも店舗をお持ちではなかったですか?」
「あ~、バリャドリードとサラマンカには店舗があって、それぞれ息子二人に任せる予定だったのだが、成り行き次第では、ここブルゴスを引き払う覚悟は出来ているよ」
「今までと同じく、しばらく滞在して貨幣の交換などをお引き受けしますので、よろしくお願いします」
「あぁ、こちらこそ、よろしく」
会長と長男は深刻な表情を浮かべているのだが、次男は単純に嬉しそうであった。
ブルゴス町は交通の要所ではあるものの、人口も1万人程度。農産品はバスク州のビトリアから、そして工業製品や海産物ならビルバオから運ばれていた。
交易路として税を取っていない以上、ロメーロ氏がここに領主として城を築いても元が取れるとは思えない。
そこで、朝一番に宿に戻り、冒険者の2人にロメーロ氏が連れて来た戦闘団の規模、戦力についての調査を依頼した。
グラント商会のペレス会長と摩耗貨幣の交換を終えたスナーナは、新たな問題に悩まされていた。
「なんとかなりませんか、スサーナさん」
「これは…フェルナンデス金貨ですね…」
「はい。ロメーロ氏が赴任直後に町内一帯に食料の徴発を行いましてね。その際に在庫の武器防具を献上して、代わりに頂いたのが、この金貨なんですが…」
当初カセレス金貨の9割相当で交換できていたのだが、最近では金の含有量が不安定で、リスクが大きくて使えないと、敬遠されているのだ。
「私の所で交換はできませんね。金製品として重さで取り引きするしかないでしょうね…」
「やはり、そうでしょうね…」
「あの立派なロメーロ城に武器防具を献上しに行ったのですか?」
「いえいえ、あの城は外壁だけの張りぼてです」
会長の話では、一般人は中には決して入れないのだが、自分達は献上品を持参したため中に入れたのだとか…。
後々、内部は完成するだろう、と言っていたのだが、工事が続いているという話は聞いていないし、資材も搬入された気配はないそうだ。
交換などの商取引が一段落し、スサーナのウエストポーチ型のマジックバッグ3つに全て収まったタイミングを見計らって、次男のガルシアが声を掛けた。
「スサーナさんは、いつまでマクダネル様のお仕事をされるおつもりですか?」
「と言うと?」
「いやあ、スサーナさんなら独立して商会を経営することも可能でしょう?」
いわゆる誘い水という事だろう。
スサーナ自身、ブルゴス町またはビルバオ市に居を構えて、今後の動性を見極めたい気持ちもあるし、子供は作れないが、結婚してスパイ生活を送るのもいいと考えていた。
彼女に過去の記憶は無いが、データとして潜入スパイのような活動履歴もある。
1号機のサラは万能タイプとして作られていて、その性能から主にマクダネルの周辺に居る存在であった。
2号機のマリアは褐色の肌を持つ海洋性都市に適した性能を有し、風魔法や調理スキルが秀逸だ。
3号機のラウラは唯一のメガネ女子、薬物研究や医療のスペシャリストとして、フランク王国に潜入していたが、急遽呼び戻されていた。
4号機がスサーナ。5号機がアナ。いずれも旅の行商人と同行する冒険者、または、スパイに適した性能を有している。
「ご存知のようにマクダネル様は、この地域の発展と安寧のために神から遣わされたお方であり、私はそのお手伝いをしている者です」
商会長は頷いているが、息子たちは『えっ!』と一瞬驚き
「やっぱりそうだったか~」と息子ふたりがハモる。
「そうでなければ、摩耗貨幣の交換など1銭の利も無い事を誰がするのだ、馬鹿者!」
「ふふふ…お二人ともまだまだですわね…、私はこの地に出て来たロメーロ氏と、ビルバオのエルシド氏の間で、なにやら物騒になりそうな気がしているのです。当然、監視が必要ですもの…退屈が嫌いな私に、ちょうどいいかなって…」
「ガルシアさんは、どこのお店を担当される予定ですか?」
次男の回答を手で制して、
「うむ、まだ決めておらんのですよ」
と商会長が答えた。
「私、このブルゴスの店なら、勤めてもいいかな~」
「或いは…ガルシアさんなら、私をお嫁にしてもらえるかしら?」
「では、不肖ながら私ガルシアが、この店を継ごうかな…」
「でも、嫁入りには条件がありますよ…」
驚きながらも商会長が聞いてくる。
「どういった条件でしょう?」
「時々は両替のためにカセレスに戻りたいのと、私は今年18になりますけど、10年経って子供が産めない時は、離縁して頂きます」
「い、いや、その条件はスサーナさんにとって、厳し過ぎるでしょう?」
「いいえ、子供が出来ないなら、グラント商会にとっては大きな痛手になります。それと、危険な状況になってきたら、バリャドリードやサラマンカに移転して頂きます」
「僕はその条件で文句はありません!是非!僕と結婚して下さい!」
次男ガルシアが跪いて、スサーナに合意の握手を求めてきた。
「商会長、私みたいな嫁で本当にいいのですか?」
「もちろん! 私がもらいたいくらいだ」
「父さん!」
「冗談だよ、冗談。そんなに怒るな…」
今度はスサーナが、ガルシアに握手を求めて、話はまとまった。
「では、7月にこちらのお店に再び来ますけど、本当に私、親族も荷物も何もありませんけど、よろしいのでしょうか?」
「あぁ、全く問題は無いよ。身体ひとつで来てくれればいい。ありがとう」
ひとり蚊帳の外だった長男が、ぼ~~と何も言えずに立っていた。
とりあえず、ロメーロ城内部の簡単な図を商会長に書いてもらい、内部の人員配置や武器の種類など、必要と思われる事項は偵察した冒険者の報告を待つことにした。
その後、数日を掛けて仕事を済ませてから冒険者とともにビルバオに出発した。
「これで、ロキ様のことは諦められる…」
この独り言は、誰の耳にも届く事はなかった。
お読み頂き、ありがとうございます。
『この作品を読んでみよう』とか、『面白そう』とか思われた方、
是非、ブックマーク登録や、いいねボタンをお願いします。
励みになります。