第43話 ブルゴス町の支配者
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聖域暦 158年5月
プラセンの冒険者ギルドで護衛の冒険者15名を雇い、輸送隊に3名ずつ護衛を追加しながらカンタブリア山脈の石炭鉱山と鉄鉱石鉱山にやってきたスサーナだが、周辺には異常はなかった。
どうやら、ブルゴスという町にフェルナンデス家の縁戚の者がやって来て、その手下が鉱山付近を探っていたらしい。
要は、『金鉱山に手を出すな』という事らしい。
だが、ここカンタブリア山脈の東方65Kmにあるビルバオ市とは違い、ブルゴス町は金鉱山から190Kmも南に下った地点にある。
まっすぐ南へ下ればマドリードへ入る事ができるため、そういう意味ではブルゴス町は、交通路の要所ではある。
皇帝を名乗るフェルナンデスが、北方の海に近いビルバオに『自治を認めた』というのも、カンタブリア山脈などの海側の地域だけを指しているのかも知れない。
事実、レオンやバリャドリード、ブルゴスなどにはビルバオからの出兵は無く、逆に中間地点であるブルゴスにマドリードからの部隊が駐留しているのだとしたら…。
そこでスサーナは、ブルゴス町経由でビルバオ市に行き、情報収集をする事にした。
同行するのは今回雇った冒険者のまとめ役だったデービッドという前衛職と、弓を使うマルタというキツネ目の女の2人組だ。
「ほうー 偵察ってか。まーどんな奴が出て来ても、あんたひとりなら余裕で守ってやるぜ」
「美人の雇い主だからって、張り切り過ぎじゃないの?」
「うるせー!」
「あなたたち、夫婦なの?」
「な、なにを言ってるの…そんなわけないでしょ」
「は、ははは」
まんざらでもない返答を返す二人を無視して、鉱山から南へ、カセレスへの帰路の途中にあるブルゴス町を目指す。
スサーナは、ロキがいない所では藍色系のパンツスタイルであり、ミニスカートは穿いていない。つまり、あの格好は、あからさまなロキへの挑発であったのだ。
地味系パンツスタイルでも地が美人なため、どうしても目立ってしまうスサーナ。そこで、冴えない2人組とパーティーを組んだ冒険者として、ブルゴス町に入った。
小高い丘の上に建つ『ロメーロ城』と呼ばれる建物は、つい最近完成した領主の建物だそうだ。フェルナンデス家の縁戚だけあって、金回りはいいらしい。
町の端に位置する比較的安い宿を確保する。今は商人の護衛ではなく、冒険者なのだ。
2人組と一緒に夕食を取り、宿周辺の人からの聞き込みを指示して、スサーナは町の中心部へと入っていく。
元々、北方ルートの商人の護衛として高額品取引と摩耗硬貨の両替を行っていたため、域外交易をおこなう有力な商人とは顔なじみなのだ。
中心部の防壁をくぐると、この町一番の商人の店にやって来たスサーナ。
「こんばんは~」
「お客さん、すみません、もう閉店の時間…あっ、スサーナさん!失礼しました」
そう言ってやって来たのは、3代目の当主候補だ。
どうも長男というのは、どこともおっとりしている印象がある。
「スサーナさん! お久しぶりです!」
元気よく奥から駆け付けたのは、次男のガルシアだ。
この男、年齢が近い事もあり、以前から自分に気があることに気が付いていたスサーナ。
「お二人とも、元気そうで良かったわ」
視線をわざと次男から長男へ移してから挨拶するスサーナ。
ルアーに引っ掛かるような次男の反応に、かわいいとさえ思えてしまう。
「お父さん、いる?」
グラント商会のペレス会長とは、スサーナが15歳に生まれ変わった時からの付き合いだ。
生まれたすぐは、過去の自分に関する記憶は無く、スサーナやアナのように偵察任務の者は、取引相手や市場の状況などの過去のデータはインプットされている。
35歳になった使徒は、その記憶が解析され、失敗事例の原因となった能力がアップグレードされる。初号機が簡単に冒険者に破損させられたあと、骨格や筋肉組織が補強されたのだが、重量オーバーで水没してしまった事例もある。
物質へと分解される機体だが、活動当時の名前や姿形は、データとして残される。使徒はこの20年サイクルでアップグレードを繰り返しているのだ。
「おお!スサーナさん、お一人で来たのですか?」
「はい。今回はカセレスの輸送隊の護衛だったのですけど、グラント商会さんの事を思い出して、寄ってみたのです。」
「さようですか…宿の手配がまだでしたら、ここで泊まって行きませんか? いろいろ話しもありますし…」
「ありがとうございます。私もお話ししたい事がありましたので、お言葉に甘えさせて頂きます」
その後、バタバタと店じまいをして、応接室で会長と息子2人を相手に話しを始めた。
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