第4話 組成変換
いきなり風景が変わり、屋敷の前に来た。
慌てて、スーツケースが横に有ることを確かめ、ひとまず安心…。
今日は占い師がいない。
とりあえず、屋敷のドアをノックしてみる。
「コンコン」
しばらく待ったが反応がない。音が小さすぎるのだろうか?
ドアノッカーを使う。
「ゴンゴン」
しばらくして、サラさんが扉を開いて出て来た。
目を大きく開いてから
「お待ちしておりました、ご主人さま」
返す言葉も思い浮かばず、黙ってお辞儀をした後、スーツケースを運ぼうとしたのだが、既にサラさんが持ってくれていた。
スーツケースを引くサラさんに続いて屋敷の中に入ったのだが、他に人の気配がしない。
階段を上った先の2階に視線を向けていたのだが、一瞬めまいがして、支えになるものを探したその時、目の前にサラさんが引き返して来て、私を支えてくれていた。
とっさの行為とは言え、サラさんに抱きついた形になった私…。
「すまない」
そんな言葉とは裏腹に、サラさんからのいい匂いと、若いやわらかなサラさんの感触に、うれしい気持ちで満たされていた。
ふらつく私を、サラさんがリビングに誘導してくれる。
リビングのソファーに座り、めまいが治まるを待つ間に、サラさんは持っていたスーツケースを2階の執務室に運んだそうだ。
突然来てしまったので、受け入れ側としても大変なんだろうと同情する気持ちと、事前に連絡が取れなかった事に対する自責の念が多少はある。
まあ、どこをどう見ても、電話機らしきものは無く、連絡方法は無かったと推察しているのだが…。
サラ
「お待たせしました」
入れてもらった紅茶を飲み、少し気分が落ち着いたところで
「転移の際のめまいは、しばらくすると治りますから、ご安心を」
「あ~ それは誰もが経験するものなのかな?」
「はい。次元を超えるので、そうなるようです。ところで、宝くじをお出し頂けますでしょうか?」
長財布から宝くじを取り出し、サラさんに手渡す。
「荷物の輸送依頼もしておきましょう」
そう言って『トランクルーム荷物引換券』に拇印を押すように促され、引換券はスッと霞のように消えてしまった。
「これで大丈夫です。係の者が現地へ出向き、説明と依頼をしてくれますから、2日ほどで届くでしょう」
「それと、ご主人様に説明をさせて頂きます」
「あ~確かに。このままでは届いた荷物をどの部屋に運び入れるかでさえ、判断できないからね」
「いえ、そうではなく…」
「ご主人様はこれから、こちらの世界になじむように組成変換が行われます」
「組成変換?…それはどういうものかな…」
「簡単に言えば『若返り』という事です。体調が大きく変化しますので、先に自室へご案内いたします」
めまいは治ったと思うのだが、サラさんに肩を貸してもらって3階の自室に入った。
自室というから、てっきりベッドがあるだけだろうと思ったのだが、10畳ほどの広さに加え、浴室と洗面所があり、まるでスイートルームのようであった。
「こちらがご主人さまのお部屋です。執務室は2階ですが、そこへは組成変換が終わってからご案内いたします」
「それでは、こちらのお薬をお飲みください」
まるで牛乳瓶のような容器を渡されて、少し飲んだが、それなりに美味しくて、一気飲みしてしまった。
しばらくして気持ちが悪くなってきた。
「体内の組成変換が始まったようですね…すこし横になっていてください。すぐに収まりますから…」
そう言われて、ソファーの肘掛けに頭を乗せるように横になった。
30分ほど横になっている間、サラさんはクローゼットから様々な男性物の衣服を取り出し、衝立に展示するかのように並べていた。
随分と回復してきたと同時に、トイレに行きたくなってきた。
「トイレはどこかな?」
「ご案内いたします」
サラさんは再び私の腕を取り、肩を貸すようにして、トイレに案内してくれた。
水洗ではなく、ぽっとん式なのだが不思議に臭いはしない。
なつかしい四角く切られた紙が置いてあった。
私は手で揉んでから使うことを知っている世代だ。
サラさんの説明によると、体内の組成変換が行われて『不要な脂肪』などが真っ先に排出されるらしい。
骨格の若返りも行われるため、特殊なサプリメントを1か月くらいは飲み続ける必要があるとの事。
それと組成変換が終わった後の肉体年齢は、おおよそ15歳程度で、基礎訓練後に学園の3年生に編入になる予定だそうだ。
この時点では、自分の意識はまだ混濁しているような状態であり、夢の中にいるような感じで、ベッドで横になり、すぐに眠ってしまった。
お読み頂きありがとうございます。
『この作品を読んでみよう』とか、『面白そう』とか思われた方、
是非、ブックマーク登録や、いいねボタンをお願いします。
励みになります。