第37話 協力者
平日は17時と19時の2回予約投稿の予定です。
聖域暦 157年11月
輸送隊が結成されて約1か月、6日毎に1部隊がプラセンまで薪を輸送したあと、そのまま北に進路を取り、アリセダ山脈まで黒い石を取ってくることになっていて、そろそろ現地に到着する頃だ。
そして、これから出発する部隊には、赤い石を取って帰ってもらう予定にしている。
私とスシは、今から出発する部隊に合わせてプラセンに移動し、陶器の出来具合いを確認したいと思っていた。
湖のキャンプ場で1泊してプラセンに到着した翌日、領主フェリクス氏に会うべく、プラセンの商人グイスガルド氏の店に行った。
「おぉ、これはマクダネル様、スサーナ様、ようこそおいで下さいました」
「お久しぶりです、ご主人」
主人の目線はスサーナ8、私は2だな。ま~みんな美女が好きだから仕方ない。
「また領主フェリクス氏に会いたいのだ。手配をお願いできるかな?」
「承知しました。おい!誰か木札を持ってきてくれ」
「最近は木札を使うようになってきたのか?」
「はい。陶器の作成のために大量に木が入荷するようになり、木札は大変安く、また、使用後は燃料として利用できるのです」
「なるほど…」
「ところで、フラビオ氏の後継者が作る陶器の出来はどうかな?」
「はい、出来は良いのですが、なにせ専用の工房がないので、少量しか作れていないようです。あの量ではタラベナ市に対抗するどころか、以前よりも品薄になっております」
翌日朝、フェリクス氏からの迎えの馬車がやって来た。
私とスサーナを乗せてすぐに、フラビオ氏の陶器製造現場に向かった。
プラセン市近郊のイエルテ谷には地層がむき出しになっている場所があり、各種の粘土採集には困らない。
そのため、陶器の素焼きまでは順調だったのだが、専用の窯を持たないフラビオ氏の陶器製造現場では暫定的な小さな溶鉱炉風の窯が作られていた。
「こんな溶鉱炉のような釜で焼いているのか…そりゃだめだ」
フラビオ氏の3代目ハビエルは、驚いたように私の顔を見た。
おそらく本人は順調だと思っていたのだろう。
だが、趣味の陶芸とは違うのだ。
「この地にはイエルテ谷という自然環境があり、山側は傾斜地が多いのだから、これを利用しない手はない」
そう言って、羊皮紙に穴窯の図を書いた。斜面に穴を掘ってその中で焼けば温度が上がり、よく焼けるだろう。
そして、ここで素焼きの優れたものが一定量たまったら、釉薬を付けて本焼きをする。
同じく羊皮紙に連続登り窯の図を書き、最下段で薪を燃やし、2段目、3段目に作品を置く事を説明した。
当然、大量生産ができるが、各段の窓から炎の状態や流れを確認して薪を追加していく。
地球から持って来た趣味の本に書かれた内容を、まるで自分の知識のように言うのは気が引けるが、仕方ない。
1日目:『あぶり』…とにかくゆっくりと温度をあげていく段階であり、窯と作品の両方を900℃まで温める行程。
2日目:『攻め』…900℃~1150℃の炎でじっくり焚く段階。薪の灰が作品にかかり粘土、灰の化学反応をゆっくりと促していく行程。
3日目:『ねらし』…作品に灰を付着させ、それを1300℃付近で溶かす段階。
灰を炎の流れにのせて飛ばし、窯の一番奥の作品の灰がしっかり溶けるまで焚く。
注意するのは、スキマがたくさんあるほど気流は生まれない。炎を邪魔するように作品を置いて、スキマを狭く気流が激しく、かつ、均一になるようにすること。
このあと、職人達と穴窯作りが始まった。
まずは、ここでの素焼きに成功したら、穴窯は数か所を作っても良い。
その次に連続登り窯に挑戦すれば良い。
この事業が成功しないと、素材の違う磁器についての話はできない。
それと、料理店などの小規模用として、練炭という新しい燃料を開発している事をグイスガルド氏に告げた。
料理店規模の調理なら無駄なく使い切れる程度の燃料だし、木炭よりも安く使えて火力も強い。
時間の有る時に、学園の交易所に来てほしいと言っておいた。
現状、西方メンリオ村では、森林の間伐材を使って木炭と炭筆を作っている。
東方トルヒリ村では、練炭コンロを試験製作中だ。
北方プラセン市では、陶器の大量生産に向け、穴窯と登り窯を開発中だ。
残された地域は、バダホース村とメリダ村だが、この2つの地域をどのように組織化し、発展させるか、それが問題だ。
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