第35話 戦いの準備
平日は17時と19時の2回予約投稿の予定です。
聖域暦 157年10月
学園の新年度の授業が始まってから1か月が経った。
1年生では、戦闘術として剣や盾、槍、弓のそれぞれを最低限使えるように授業を組んでいたのだが、現状、このレベルでは小動物を狩れる程度であり、冒険者として盗賊達と戦うことさえ危うい。
そこで2年生からは、戦術レベルで集団戦闘ができるように、教育、訓練を行う事にした。
まず、屋敷で農業をしていた元教会戦闘団の4人を学園の戦闘術の教官にして、以前のように重歩兵の装備をさせて、彼らと対峙させる。
重歩兵の大盾と鋭い突きを放つ槍。
それを丸盾で受け流す訓練だ。
彼らの突きに慣れてくれば、今度は常に横方向に動いて、決して正面から打ち込まない事。
それでも、単なる剣では重歩兵の装備には大した打撃を与えられないが、まずは、突きを食らわない事だ。
次の段階は、3人でこの重歩兵を相手に、どうすれば良いのかを考える。
前衛は盾+剣か盾+槍の3人。
残る一人は中距離から相手の盾を剥がす『縄付き錨』を使うなど。
最後は、相手が同じタイプの4人部隊だった時の対応だ。
この場合は、すばやく2部隊が機動的にひとつになって、8対4で戦う。
中距離担当の弓も有りだろう。
カセレスの戦闘団は、基本的に侵略戦争はしない。
あくまで防衛戦特化だ。
だからこそ、常に3方向からの攻撃を考える。
課題は遠距離攻撃武器の開発だ。
重歩兵には弓矢が効かないからだ。
クロスボウの研究はさせているのだが、バネ素材がない。
私は石炭が運ばれてくるようになるまでの準備として、骨董品として倉庫に眠る昭和29年に発明された『上つけ練炭コンロ』を再現したい。
このコンロは底部の空気穴以外に、途中に空気穴を設けて、発生する一酸化炭素を二次燃焼させて、燃焼温度を1100℃まで上昇させた画期的な商品であった。
なんでも珪藻土という堆積岩(軽石)を使うと耐熱性能はとてもいいらしい。
同じく、練炭。
今後運ばれてくる石炭を細かく粉砕して、木炭の粉と混ぜて練炭にするのだが、型が必要になる。
練炭とコンロを普及させて、木炭の消費を抑えなければ鉄の生産に支障がでるからだ。
私がまだ小学校低学年の時、教室には石炭ストーブがあった。
円筒形の内部には下段に薪を入れて、上段が石炭だったように記憶している。
いびつな形をしたバケツに石炭を一杯入れて、当番の者が教室まで運んだ…そんな記憶がある。
なつかしい鋳物のストーブだが、今は再現できない。
学園の溶鉱炉は自然石と粘土で作られた釜で出来ている。
小型のため、ふいごも水車の力で動かすわけじゃなく、人の足だ。
青銅の融点は700℃~900℃で、この釜でも十分に作れている。
何より錆びないし、鍛造して固くすれば農具としては満点だからだ。
そこで、倉庫の骨董品『上つけ練炭コンロ』を持って、トルヒリ村に来た。
農業が主産業の村だが、近くには湿地帯、湖もあり、珪藻土という堆積岩(軽石)が取れないか?
取れなくても、色々な粘土で『上つけ練炭コンロ』を再現できないか?
それを相談に来たのだ。
村長以下、村の主要な人物と学園卒業生でもある狩人3名が集まっている。
一度同じ形のものを粘土で作ったら、素焼きにして学園に納めてもらうつもりだ。
まあ、最初の内は4~5回使うとヒビが入ったりするだろうが、技術というのは、そういう試行錯誤を経て、進歩してゆくものだ。
説明のためには、練炭を燃やさなければ理解はできないようだ。
中に入っていた練炭のビニール袋を破り、乾燥剤シリカゲルを取り出す。
練炭は容易に火が付くものではない。
そのため、この4号練炭には着火剤が付いているのだが、これを取り除き、上に木炭を置いて火をおこす。
小さな木片からやがて木炭に火が付き、やっと練炭にも火が移ったようだ。
ここで五徳とも呼ばれる上付けカバーを乗せる。
すると村長が鍋を持って来て、湯が沸いたころ闇鍋のように、色々な食材をぶっこみ始めた。
(やばい!下手をすると闇鍋を食わされる!)
私とスシは、こそっと馬にまたがり、
「それじゃー頼んだぞ!おんなじものを作ってくれよー」
そういって、学園に戻った。
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