第34話 罰則
次はマルワンの娘ですか…。
「なぜ、男性と偽ってまでニコライと同室になって入学したのですか?」
「それは…ニコライ様は婚約者だし、彼は…」
「彼はなに?」
「彼は村の人として入学したから、私が守らないといけないと思ったんです」
「守る? 同室になることで、何から守るの?」
「……」
「あなたはニコライの罰も背負うつもりなの?」
「はい」
「わかったわ。ゴンザレス!こっちに来てちょうだい」
「お呼びですか、サラ様」
「悪いけど、この子を動かないように押さえておいて」
「はい」
そういって、ゴンザレスに後ろ手に縛った両肩を後ろからしっかり支えてもらった。
「嘘つきの罰に、舌を切るから、舌を出しなさい」
「い、嫌あ~」
「ほら、口を開けるのよ!」
「うう~うう~ん」
鼻をつまんで口が開くのを待って、木で作られた道具を噛ませて上下一杯に口を開けさせる。
口の中が丸見えになった。
「さて、これでもう終わりね」
そういって、左手で逃げ回る舌を掴む。
涙がいっぱい出て来て止まらない娘。
「レモƐギャイƱデルー」
何を言っているのか分からないが…
舌を手放す。
「二度とマクダネル様を騙さないと誓いますか?」
「ハー、ハハエアハー」
やはり何を言っているか分からない…
器具を外し、口の強制を解く。
「舌を切られたつもりで、これからの人生、精一杯ニコライを支えますか?」
「はい。誓います」
ゴンザレスに、ダイニングで食事を与えてから独房に戻すように指示をした。
最後はマルワンだ。
「さて、ふたりには罰を与えました。これからニコライにはカセレスの輸送隊兼武器担当として働いてもらいます。娘さんにはその手伝いをして頂くつもりです」
「そうですか…ありがとうございます」
「ふたりは若いですから、なんとかやっていくでしょう。けれど、あなたはどうしますか?もう新しい村長は決まったでしょうし、使えないリスボンの銀貨をつかまされて、村民は怒ってましたからね…」
「えっ、使えないんですか?」
「貨幣と言うのはその地域で使えるというもので、リスボンの曲がった銅貨や、すり減った銀貨を、だれが受け取ってくれるのですか?」
「……」
「商人のことも知らないで、商人のまねごとをするからこのような事になるのです。一度村に戻ってみんなに謝ってから、この屋敷の近くに作るニコライの輸送隊でお世話になってはどうですか?」
「ありがとうございます。そうさせて頂きます」
アルベルト家の3男ニコライ。
これからはただのニコライとして、輸送隊を設立し、カセレスのために村娘とともに頑張ってもらおう。
リビングに戻ってきたサラ。
「新しく家を1軒建てています。1週間後には完成する見込みで、ここへバダホースのマルワン親子とニコライを住まわせるつもりです」
「大変いやな役目をありがとう」
「いいえ、とんでもない」
「ところで、初代様はどうしてバダホースとメリダに統治者を置かなかったのかな」
「わたくしの知るところでは、バダホースは馬を育てる遊牧民。メリダはボートピープルだったからです。リーダーシップのある者は居ましたけれど、少し教育をするとプラセンに移住してしまうのです」
「そういう事か…ともに自分の村に誇りを持てなかったという事だね」
「さすがロキ様。言われてみれば、そういう事ですね。私はただ便利な都会を知れば、みんな移動してしまうと考えておりました」
(あの夜以来、親しくなったからか、ロキ様に変わったな…)
「うむ。学園に通達。各村の成り立ち、英雄エピソード、強みと弱み、自分なら村をどのように発展させたいか、これを考えてまとめて提出させよう」
「あは、了解です」
今日はずっと屋敷にいたため、夕刻になって屋敷に戻って来たスシに、学園での今日の出来事を聞いてみた。
思った通り、バダホースの生徒達が今回の騒動で動揺しており、何とか名誉を回復したいと言っていたそうだ。
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