第33話 尋問と罰
平日は17時と19時の2回予約投稿の予定です。
マジックミラーこそ無いものの、取り調べ室のように机を2つ向かい合わせに並べ、奥側にニコライを座らせる。
セラ
「エボラ領主アルベルト家の3男ニコライに間違いないですね?」
「はい」
「なぜ、身分をいつわってカセレス学園に潜入したのですか?」
「進んだ技術がたくさん学べるし、進んだ道具もあって、どうしてもそれらの事を知りたかったんだ」
「どうして正式に留学の申請をしなかったの?」
「姉さんも潜り込んでいたと聞いたから…」
「ではもうひとつ。どうしてマルワンの娘さんに男装させてまで同室にしたの?男女が同室で寮に入るなんて、貴族として前代未聞の恥かしい行為ですよ」
「彼女が自分から言い出したんだ。私達は婚約者だし、私は許可しただけだ」
「あなたの言い分は長男と全く同じね。許可しただけ」
「兄さんに会ったのか?」
「そうよ。あなたと同じ言葉を言ったわ。偽装入学は弟が言い出した事で私は許可しただけだ、とね」
「なぜだ。なぜそれが罪になるんだ。カセレス学園は庶民が入る学校だろう?だったら貴族の私が少しばかり優遇されても当然じゃないか」
「あなた、いつからカセレスの貴族になったの?」
「うっ……」
「それにバダホースの庶民の娘と結婚して、バダホースで庶民として暮らしていくつもりなのでしょ?」
「な、なにを言っているのだ。私は次期村長として村の発展を指揮していくつもりだ」
「うふっ、あなた村長のマルワンから聞いてないのね」
「なにをだ」
「あの村では誰も税を納めてないのよ」
「は~?」
「あの村は馬を育てる民族が放牧をおこなっている地よ。遊牧民。彼らはあの地の北側に広がる草地で馬を育て、川の流れるあの場所に来ていたのよ。それを初代マクダネル様が豚を育てる事を教えて、あの地に定住しただけの自由民」
「そして、馬や豚の糞を肥料として利用することを初代様から教わった農民が集まり、野菜やそれを売る商人もあの地に定着して、初代様との連絡係として村長が選ばれる事になったのよ。つまり村長は統治者じゃない、単なる連絡係、お世話係なのよ」
「……。」
「おそらく村長は、あなたの政治力やエボラの軍事力で、バダホースの領有を夢見ていたんじゃないかしら…」
「つまり私は、彼らを利用しているつもりが、彼らに利用されていたという訳か…」
「お互いに利用していたという事で引き分けね。そこで提案よ」
「ん?」
サラがステンレス剣を取り出して、鞘から抜いた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
「勘違いしないで!これを見せたいだけよ」
サラが抜いた片手剣は、ロキが持つ70㎝、720gの剣とセットになっていた装飾剣の長さ102㎝、1050gのいわゆる長剣であった。
「それは鉄の剣よ」
「これが、あのすぐに錆びてボロボロと崩れる鉄製だと言うのか?」
「いいえ、あなた達が知る材料だけでなく、あなた達が知る作り方ではない鉄の剣よ」
「……。」
「構えて。これからあなた達が買ったマドリードの青銅剣で斬りつけるから」
「えっ、ちょっと…」
「えいっ!」
『ガキン!』
ステンレスの剣には、青銅剣が打ち込んで来た場所に擦り傷の痕跡があるだけだが、青銅剣は深さ1.5㎝の切れ込みが出来て、曲がっていた。
いかに最新式の鍛造の青銅剣と言えども、鋼鉄に打ち込めば当然の結果と言えた。
「私達はこれから、この鉄の剣を作ることにしたの。あなたはこの剣の材料、製造方法を知りたくはない?」
「もちろん、もちろん知りたいです!」
「そもそも私達は、領地が単独で発展する時代は終わったと思っています。例えば、ベージャの農業はベアトリス妃が担当するのがふさわしいし、軍事は殿下が担当するのがふさわしい。けれど、今の武器ではリスボンからの侵攻には耐えられない」
「だったら、研究や開発が得意なカセレスが武器の開発を行えば良い。そして、それをニコライ、あなたが担当するのはどうですか」
「はい。ぜひ、担当させてください!」
「これは罰です。5年間の労働懲罰刑として働くのですから、給料はありません」
「あ…はい…」
「まずは輸送隊を10組編成してください。御者1名に護衛2名で1組です。馬と御者はバダホースで調達。護衛はプラセンのギルドで集めなさい。いいですね?」
「はい」
「支払い業務など、助手としてマルワンの娘を使うと良いでしょう」
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