第32話 貨幣交換機
次の日は朝から宿を出て、バダホース村の中で
「見た事のない銀貨は使えないかも知れないから、受け取らないように」
そのように啓蒙しながら村長の家に向かった。
当然、手元の硬貨を確認してパニックになる者もいる。
村長の家に着いた時には、既に数人の村民が抗議に来ていた。
家の玄関の外から村長を呼び出す。
「おい、マルワン、いるか?」
「こ、これはマクダネル様、サラ様」
「あなたいったい、どういうおつもりなのですか? あのような正体不明の男をバダホース村の者として学園に潜入させるなんて!」
「あっ、えっ、いや……」
返事もろくに出来ないことを見て、村長を後ろ手に拘束するサラ。
「マルワン、あなたをカセレスに連行します。それと村の者はマルワンに代わる村長を選出しておくように!」
結束バンドの使い方が極めて優秀。
我々は馬でカセレスに戻ることになるが、マルワンには腰縄を付けて歩かせる。
村を出てしばらくは市中引き回しの刑だが、村を離れてからは、サラの馬に荷物のように乗せて走った。
バダホース村からカセレスに戻るルートは、屋敷の場所に戻るルートになるため、一旦、囚人たちを入れていた長屋に村長を拘留しておいた。
そのあと、サラは学園に行き3男ニコライとマルワンの娘をサラとスシが馬に乗せて連行して戻ってきた。
このふたりも留置室で拘束しておき、最低でも3日間は食事抜きとなる。
西のアリセダ山の貨幣鋳造機は、どのように作られたのか?
サラの説明では、初代様が具体的に欲しい物を図面に書いて提出すれば良かったらしい。
簡単に聞こえたのだが、悪用されかねない欠点がないかチェックは相当厳しいらしい。
奇跡が与えられるか否かは、神のみぞ知る。
ならばと、考えていた貨幣交換機の図面を書いてみた。
まずは、現代の自販機のように投入口にコイン判別機があって、重さ、大きさ、電気抵抗や魔法などを使って金、銀、銅の比率を判断する。
フェルナンデス金貨やベラスコ金貨は金の比率が低い。
銀貨も同様に、比率によってカセレス銀貨に交換できる物と排出する物に分ける。
肝心の内部にはあまり貨幣を持たず、アリセダ山から転送し、交換機に入った硬貨はアリセダ山に送られる。
比率の悪い不良硬貨は、複数枚入れて複数枚出せば良い。
例えば3枚入れて、2枚出てくるなど。
明らかな偽貨幣は没収される。
最後に交換終了ボタンを押せば、余剰貨幣の返却とレシートが排出される。
つまり、小型ドットプリンターと特殊ロール紙。
インクリボン交換が不要なタイプだ。
特殊な操作として、預入と貸出ができるようにテンキーを装備する。
これで、OKだろう。
A4用紙で仕様書が1枚。
図面が2枚。
機械を開けた扉側の図面と機械本体側の図面だ。
当面は、カセレスの交易所に1台、ベージャに1台、プラセンに1台あれば良いだろう。
「提案書を書き上げたご褒美ですよ。」
そう言ってサラが再び私と一緒にベッドで寝てくれた。
サラと口づけをする。
そしてその柔らかい身体をなぞるように触れて、その感触を味わっている間に、自然と眠くなる…
あれれ?
どういう事?
翌朝、目を覚まして、サラの魔法で眠らされたようだと気が付いた。
「ご褒美は?」
「ぐっすりと眠れたでしょう?」
今度から褒美の内容を聞いてから喜ぶことにしよう。
エボラ領主アルベルト家の長男パブロは領主となっていたが、2男カルロスはリスボンに留学後、引き続き航海術を勉強していたらしい。
長男とは違い技術に関心がある分、見どころはあるだろう。
3番目の子がベアトリス妃であり、弟の3男ニコライと同じく第二夫人の子供だそうだ。
とりあえず、『領主継承権を持つ者』という条件では、前述の男子3名なのだが、船が帰港するまで2男カルロスとの連絡方法がなく、まだ時間が掛かるらしい。
とりあえず、ベージャとの連合加入の手続きは進んでいる。
私とスシは学園に戻り、ビトリアの西、カンタブリア山脈の『黒い石』をいかにしてカセレスに運ぶかについて話し合っていた。
黒い石とは石炭の事だ。
この世界で石炭は発見されていたのだが、大々的には使われていない。
使用のむつかしさが邪魔していて、薪の方が好まれているのだ。
そんな物を何に使うのか、という疑問には答えずに、スシの偵察範囲であったルートのブルゴスまで運べば、いつもの街道が使える。
つまり専用の輸送隊を編成できれば石炭使用のアドバンテージが得られる。
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