第31話 疑惑の解明
土日は午前10時、12時、午後は15時、17時の計4回予約投稿の予定です。
エボラから長男である領主が来た。
「では、応接室へ移動しましょう」
殿下の案内で応接室へ移動し、殿下の後ろに椅子を用意してもらった。
この部屋は、外部の要人との会談に使われる部屋のようで、グティエレス家の紋章旗が背後に掲げられていた。
殿下に続いてベアトリス妃、そして私とサラが入室したあと、エボラ領主アルベルトが入室して来た。
「ベアトリス妃、お久しぶりにございます」
「アルベルト殿には、急ぎお越し頂き感謝申し上げる。妃よりお聞きだと思うが、3男ニコライ殿の偽装入学につき、カセレスよりマクダネル様が直接、事情を聴きに来られているのだ」
目線を送られたので、その場で立ち上がり挨拶をする。
「聖域カセレスのロキ・マクダネルです」
「サラです」
「エボラ領主パブロ・アルベルトだ」
年齢から判断したのか、上から目線のこの挨拶に、ベージャのふたりは切れた。
「おい、アルベルト!領主だからと言って調子に乗るな!聖域連合といえば今や6都市がまとまる大きな勢力なのだぞ!」
「ベージャも今回、連合に加入することになったのよ。いわば、わたし達にも敵対する行為よ」
「えっ、まさか…」
「いえ、カセレス聖域連合には、メンリオ、トルヒリ、プラセン、バダホース、メリダ、ミアハダスの6つの地域に加え、今回ベージャに加わって頂くことになり、7つの地域が共同体と言えます」
「す、すみません。とんだ失礼を致しました」
サラはここでいきなり踏み絵を踏ませた。
「で、あなたのところは味方になるのですか?それとも敵になるのですか?」
「……」
私がなだめ役か…
「まあ、結論を急ぐことはありません。今回は3男ニコライ殿の偽装入学について、事情を聴きに来ただけですからね」
「どうなのです、お兄様」
エボラ領主アルベルト、その名は近隣の小さな村では相手は一目置くだろう。
だがそれは、ここ数年の正体不明の発展によるものだ。
それがベージャの資金によるものだと分かれば、なんの事もない平凡な施政だ。
むしろ3男を使って、何を、どうしようとしているのか…。
「いや、村長マルワンの娘の話じゃ、学園でインクのいらないペンがただでもらえたり、木炭とかいう使いやすい燃料が開発されたと聞いて、ニコライがその技術を盗んで帰ると言うから、私はただ許可しただけだ」
「つまり、3男ニコライが単独で考えた事だと?」
「その通りだ!私は指示などしていない」
「では我々からの処罰については、少し検討させてもらう」
一旦部屋に戻り、サラに私の考えを伝えた。
サラが同意してくれたので、再び応接室へ移動した。
「では、改めて聖域連合宗主マクダネルとして提案する」
「提案?」
「技術、知識の習得が目的ならば、連合に加盟し年間20名の生徒を派遣すれば、これを受け入れるものとする。尚、教師を1名派遣して担任として生徒の管理を行わなければならない。」
「バダホース村の領有、又は、カセレス連合内の内部分裂などの攪乱行為を意図していると思われる場合には、3男ニコライ・アルベルト及び、協力者は全て処刑される」
「この件に関与の疑いがあるエボラ領には、領主、及び、領主継承権を持つ者の合議書の提出をもって、連合に加盟するか否かの通知を求めるものとする。尚、この通知があるまで3男ニコライ・アルベルトの身柄は拘束される」
「あっ…」
全員の顔色が悪いが、仕方がない。
サラと私は別邸を出て、城門を抜け、馬を引き取りに宿に戻った。
ベージャの中心地からバダホースまで120Kmくらいか…昼前に出ても到着は夜になるだろう。
エボラ市内を駆け抜け、馬車の通らない裏街道を走り、バダホースへ戻ってきた。
先日、かなりの荷物を出荷したばかりの村中には、普段の静けさが戻っていた。
宿に入り、食堂で村長との話をどのようにするか考えていたところ、サラがマクダネル邸の関係者と知る宿の主が相談を持ち掛けて来た。
武器取引や宿代として受け取った銀貨が、メリダの商人から『使えない』と受け取りを一部拒否されたらしい。
消耗が激しいものや、重量が軽いもの、変形したものなどで、学園の交易所でも使えなかったらしい。
商人ではない彼らは、村外の人間とカセレス貨幣以外で支払いをしたことがなかったのだ。
「だったらエボラからの野菜の支払いに使えばいいんじゃないの?」
サラははっきりと言ってのけた。
確かにエボラから流通してきたリスボン銀貨。摩耗が激しいとはいえ、エボラから受け取ったのだ。使えないはずがない。
「そりゃそうだよな~。ありがとうサラさん」
「それと、今度からカセレス銀貨しか受け取っちゃだめですよ。だまされないで」
「おう!今度からはしっかり確かめるよ。」
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