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第3話 トランクルーム




手持ちの日本円841万は惜しみなく使えるし、ここでの生活に未練はない。


さて、「何が欲しい?」

「何を持って行きたい?」

いつものひとり問答だ。


気前よくタクシーを捕まえて…と思ったが、バスが来たので乗った。


地元の有名女子校の前を通るルートだが、春休みで乗客は3人のみ。


終点は隣町のJR駅前だが、繁華街とショッピングモールも近い。


乗り口近くのお婆さんが、怪しげな目でこちらを見ているのは、私がニヤニヤとしたり、ブツブツとした独り言が聞こえたせいだろう。


女子高生が乗っていなくてよかった。



バスを降りてモールまで歩いて行くと、キャンプ用品店があった。


サバイバルキットを見たが、小さなナイフ以外は私には使えない。

はさみやコルク抜きや栓抜きがごちゃごちゃ付いたものなど、いらない。


何気に寝袋が気に入った。

それと救急キット、キャンプ用品を一式。

クーラーBOX、卓上コンロ、着火道具など、宅配便で送ってもらう事にした。


血糖値を気にして避けていたカツサンドを食べたいし、夕食には蒲焼きを食べたい。

最後の晩餐という気分だ。



少し繁華街をぶらぶらしてから有名コーヒーチェーン店へ。

マグカップとカフェオレベースを買ってリュックに。

これでどこへ行っても数日はコーヒーが飲める。


残りの宝くじを硬貨で削りながら、サンドイッチとコーヒーを待つ。


出て来たのは『転移スイッチ』とあり、指紋の形の薄い印刷がある。

転移スイッチの券面には注釈は無く、拇印を押せば良いという事らしい。


最後の1枚

出て来たのは『装備品スロット』と書いてある。

注釈には【5つのスロットに装備品を登録しておけば、瞬時に切り替えが可能】と書かれている。


もしかすると、『獲得経験値10倍』とか、『アイテムBOX』とか思っていたんだが、残念ながらそれは無かった…。




家に戻り、トランクルーム(4畳)分まで可能と書いてある注釈文を見ながら考える。

65歳の人生の仕上げに、どんな生活がしたいのか?

電気が無いのはつらい。


再びやる気を出して、インターネットに入り、ソーラーパネル充電器やシェーバーなど、現地には無さそうな物を色々と購入した。


プライム会員なので、明日中には荷物が到着するだろう。



次の日、一日掛けてリサイクルショップの倉庫を整理し、売却処分、廃棄処分、トランクルーム行きの物に分けた。


父の商品を見極める目は確かだと叔父は言っていたが、『需要が無い』ものを買い取る業者は無かった。


母が使っていた3輪自転車に乗って、少し離れた近所のスーパーまで総菜を買いに行く。

もう、外食するのも面倒だったのだ。160gの赤飯、ポテトサラダ、鉄火巻き、どれもおひとり様用の少量パックを、後ろのカゴに入れて帰る。


漕いでも漕いでもなかなか進まない3輪自転車。

前輪は20インチ、後輪は16インチの中型サイズなんだけどな~。

かと言って、バイクは燃料が無くなれば使えないし、乗った事もないけど…。


トランクルームの業者に連絡を取った。


業者が引き取りに来るまでの間、100円ショップで買い物を楽しむ事にする。

どんな所に行く事になるのか分からない分、いろいろな物が欲しい。

こういう時には、100円ショップは頼りになる。


これで家から出す荷物とネット購入の荷物は、同時にトランクルームに渡せるはずだ。




二日後、輸送業者が荷物を取りに来て、その後、トランクルームに預けられた。


実家の店舗を整理したと連絡はしたのだが、家内や娘からのメールは……こちらも思った通り、無い。


別に見合いだから、と言うつもりは無い。

家内にも第2の人生を楽しく過ごしてもらいたい。


正直、私自身が『お酒も飲めないつまらない男』だと十分に理解しているからだ。


20代後半に、上司から冗談半分で出された業務命令に『2対2のお見合いデート』があった。取引先の独身女性とのお見合いだったのだが、少しのビールで顔を赤くした私は、同僚男性を含めた3人に笑われた。


笑った者には何でもない事だろうが、私は正直腹が立った。

生まれながらの体質なのだから、本人にはどうしようもない。

恐らくは、見た目の身体のごつさの割に、『ビールで赤くなるのかよ』という意味だろう。



それはともかく、おそらくだが、宝くじの『転移スイッチ』の指紋模様に拇印を押すと、知らない世界に転移するのだろう。だから800万以上もの金をこの世界に残すのは惜しいのだが、異世界転移が確かだという証拠もないし、第一にこれ以上欲しい物が無い。



自宅に戻って、忘れ物がないか確かめたうえで、出張時の定番のスーツケース一式を用意した。


こんな一日の終わりに転移して大丈夫か?という思いを振り切り、宝くじに拇印を押した。





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