第26話 学園の潜入者
土日は午前10時、12時、午後は15時、17時の計4回予約投稿の予定です。
聖域暦 157年10月
私は前世では男子校だったこともあって、これほど楽しく学生生活を送ったことは無かった。
もしかすると、これも神の配慮なのかも知れない。
夕食は各寮の談話室に食材が運ばれて、バイキング形式の食事となる。
たくさん食べる者も少食の者も、寮の単位で自由にすれば良い。
不足するなら自分達で調達した食材を持ち込んでもOKという事だ。
次の日、早朝から学園を出て屋敷に戻り、先日私達に声を掛けて来たバダホースからのカップルの入学申請をチェックしていた。
「サラ、村長の息子マルワンと学友ニコライ・アルベルトの結界のスキャンデータを確認してほしい」
「はい」
魔道具であるスキャン装置を操作していたサラが言う。
「ご主人さま、マルワンは息子ではなく、娘ですね」
「やはりそうか…」
聖域カセレスの入門許可データベースには、バダホース村の村長マルワンの息子のスキャンデータがあり、確認したところ女性である事が判明した。
学園として、入寮者は2人1部屋が原則であり男女同室を禁止している訳ではないが、常識的にそれは、あり得ない事であった。
同室の大柄な男は、申請では『ニコライ・アルベルト』となっているが、そもそも、村長の娘と同室申請して入寮してきた事から、婚約者に準ずる人物だろうと推測している。
なぜ、正直に娘として申請しなかったのか、別室では困る事があるのか、不明な点を確かめるため、サラとバダホース村へ向かう事にした。
「ご主人さま、馬の準備ができました」
「ありがとうスシ。それと、学園に行ってバダホースから来ているアルベルトという生徒の事を調べてくれ」
「はい、承知しました」
問題は、村長の娘と同室の男が一体何者なのかという点だ。
昨日のようすでは、木炭の作成方法を知りたがっていたのは間違いないだろう。
バダホース村に到着した私とサラ。
3か月前、偵察任務の実地訓練として来て以来だが、村に商人が来ていて、活気づいているようだ。
荷台に積まれていたのは槍や剣だ。
荷物を運ぶ者達は、運河の船と荷馬車の間を往復していた。
メリダの運搬船を使ってバダホース村へ運んで来た…それは荷物の送り先が、メリダの南に位置するセビーリャでは無いという意味だ。
ならば、荷物の送り先は西しかない。
私とサラは更に10Km西にあるエルバシュ村へ向かい、宿を取る。
隣国のポルトガルだと思っていたエルバシュ村だが、宿屋の人達には国に属しているという意識はなく、事実として国境のようなものは無かった。
街道が見渡せる部屋で、明け方早くに、荷馬車の通過をサラが確認した。
早速チェックアウトをして、荷物の送り先を確認するための尾行が始まった。
翌日昼に荷馬車が入っていったのは、エボラの町の小さな城であった。
街の人に聞けば、代々の領主が住んでいるらしい。
その名はアルベルト家。
宿の酒場でサラが酒をおごりながら色々な話を仕入れて来た。
長女は西方グランドラ領主家との縁談を断り、西方との仲は悪くなったが、その代わりに、南方ベージャ領主家に嫁ぎ、その能力を認められて、今では内政を担当するまでになっているという。
一方、学園に入学した3男ニコライ・アルベルトは、カセレス連合バダホース村の村長の娘と婚約したという事で、こちらも勢力拡大の期待が高まり、評判はすこぶる良いらしい。
そこでサラが
「バダホース村の村長は単なる世話役ですよ。領主じゃないから村の者を動かす事もできないんだし…勢力を拡大中なんて、何か勘違いしてるんじゃないの?」
と言ってのけた。
酒場の威勢のいい雰囲気が一気に吹き飛び、サラに注目が集まる。
「ねえちゃん、どこからきたんだね?」
「カセレスからよ。バダホースが武器の仲介などで儲けた。どうやら景気のいい商売相手を見つけたらしいっていう噂があったから、商人の後をついて来たのよ」
「なるほど…確かにここんところ景気はいいな…」
カウンターに座っていたお爺さんは、あご髭を触りながら不思議そうな顔をした。
「ねえ、ここエボラはどうやって儲けているの?」
「いや、嫁にいった姫さんのベージャからの支援金で、町の守りを固め始めたのがきっかけだな…。若いもんはみんな西の防壁作りに参加してるし、城の防衛隊も3倍にはなったんじゃないかな」
そういえば、この酒場には兵士になれそうな若い人はいない。
「おかげで畑仕事をやる奴がいないってんで、わしらも現役に復帰した訳さ」
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