第22話 入学準備
入学の2日前になり、学園に行った。
8月に3年生が卒業して、1年生が120名入学してくる。
聖域カセレスの結界には、北と東、南側の3か所に街道があり、ここにゲートが設置されている。
実は、この結界ゲートは入る人物をCTのようにスキャンしている。
武器や魔道具の所持、そして身長、体積、顔の形などのスキャンデータを入門許可証に関連付けされる。
以降の入門と出門で身体データが一致しているかどうかをチェックしているのだが、そもそも戸籍や住民登録が無い世界だから、入学申請の時点では年齢くらいしか分からない。
したがって、入学申請が出されていない場合や、ゲートで記入する入門申請が未登録者の場合は、許可が出るまでゲートに入れない。
「登録者を間違えていました」
「そうですか」
とはいかない。
荷馬車などは、入門許可証を持つ者がゲート前で引き受ける事になる。
私は今日、学園用の服の発注と宿舎の部屋の確認に来たのだが、実は自分のウエストサイズさえ知らない。
(元の世界の私は82㎝だった)
学園用の服は、公序良俗に反しないものと規定はしているが、倫理観の異なる民族衣装で来られても困る。
そこで、制服というのではなく標準服という位置付けでデザインを複数用意したのだ。
既製服を使用する生徒は、汚れがひどい場合や破損が発生したら、衣装部でクリーニング済みの物と交換できる。
たった2カ月で男女320人分の既製服を作ったのだから、業界は大変だっただろうけど、その分、技術が向上しただろう。
在校生のサイズは前述の通り、結界ゲートで3D測定済みであり、この在校生のデータから既製服を作ったので、大量に余るサイズもなく、回転用の予備だけが余るだろう。
実は自分のウエストサイズさえ知らないのだが、サラが全てを把握しているので、さっさとズボンと上着を選んでくれたのだ。
私がこの世界に持ち込んだ白のカッターシャツや靴下、靴などの物は、全てサイズ調整がされている。
既製服がブレザータイプなので、サラリーマン時代のネクタイがそのまま使えるのも地味にうれしい。
学園制度に新しく参加したミアハダス村が加わったため、今年は1年生が120名になり、宿舎の確保が話題になった。
だが、職員用を新たに建設するように指示したので、私やミアハダス村の新入生は、旧職員用宿舎に入った。
私の宿舎は、旧職員寮の3階。
もちろん個室で隣はサラの部屋であり、もう一つの部屋を執務室として使う事になった。
私たちの荷物は、1日前の今日搬入する事にしている。
他の入寮者の搬入と重ならないように避けたのだ。
ありがたい事に、郵便部隊が手伝ってくれた。
各寮生は2段ベッドの2人部屋だ。
最初からそのように通達してあるので、都市から出てくる時点で同室になる者は決まっているらしい。
宿舎だけでなく、1年生のクラスは各村の単位に振り分けられる。
その後、2年生からは専攻科目別のクラスになる。
もちろん偏差値など存在しない。
だが理解度確認テストは座学終了時にはあって、合格しないと実技には参加できない。
私は3年生に編入だが、1階の寮生は1年生。
但し、村から教師が最低1名は派遣されているはず。
いわゆるクラス担任だ。
新しく建てられた教職員棟へ見にいってみると、なんと、旧と全く同じ設計の建物だった。
「い、いらっしゃいませ!二代目様」
突然現れた私にプラセン市から派遣された北部地理と校長を兼任するアルフォンス氏が挨拶をする。人口5万を有する都市だけに、派遣された教師の数が最も多い。
「ミアハダス村から教師の方は来ていますか?」
「いえ、まだお見えになっていません。逆に、サラ様なら知っているかと思っておりました」
私とサラは顔を見合わせた。
ミアハダス村は初めてだから、人材が見つからないのかも知れない。
今まであった作業所は、木工所と鉄工所に細分化した。
木工所ではバダホースから人を派遣してもらい、馬車や車輪などを作っている。
鉄工所は今年溶鉱炉を作り、これから本格的に製鉄に掛かりたいところだ。
そして食堂。
教職員を合わせて350名ほどとなると大変そうだが、木のワンプレートに乗せるだけの簡単な食事しか提供できない。
今年、かまどを作ったので、夕食は放課後に自分で料理すればいい。
自給自足で自立した生活を身に付けることが、この学園の目標だからだ。
一通り、春に指摘した改善点を確認して、点検は終了した。
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