第21話 使徒アナ
平日は17時と19時の2回予約投稿の予定です。
翌日の早朝(年寄りの早起きの癖が治っていない)
執務室に来たのだが、最近は初代様を見かける事が少なくなったと思う。
こんな私にカセレスの領主業を任せても大丈夫なのか?と不安が頭をよぎることもあるが、不在なのだから仕方がない。
8月に入り、学園編入まで1か月を切った今、7月分の予算執行報告などの書類に目を通し、村の単位での入学許可申請を確認する。
サインをして決裁済のBOXに入れるルールなのだが、文具の段ボールから出したシャチハタの印を押している。(訂正印もあるぞ)
もちろん、既にサラがチェック済みの書類だ。
午後になり、短剣の訓練のために調整室の前まで来たのだが、中から風切音が『ヒュンヒュン』と聞こえてきた。
中に入ってみると、小柄な少女、アナがフェンシングに使うような刺突武器を振り回していた。
「ご主人さま、久しぶりに剣の調整をするのですか?」
「そ、そうだね…。そのつもりで来たんだけど…」
「では、やりましょう」
そう言うと、調整室の対戦コーナーに歩いていくアナ。
「実は、対戦訓練って初めてなんだ…」
「そうなんですか…でも大丈夫ですよ。私、何となく感じるんですけど、初代様のスキルが少しずつ戻ってきてる気がするのです」
そうなのか?自分では意識していなかったが、そういえば最近、『ステップが良くなった』とサラは言ってくれる。
あとは体捌きだろうか…。
所定位置について、剣を構える。
「ご主人さま、短剣を使っているのですか?」
「そうだけど…」
「ふーん。では、スタート!」
合図を出したアナが、ものすごい素早さで突きを放ってきた。
正面に構えた短剣で弾き、バックステップで距離を取る。
何度か躱したのだが、膝を突かれた時に電気が走る!
「うわっ! どういう事?」
アナが使っているのは断面が四角形のフルーレと呼ばれる武器だが、驚くべきことに、突き刺すと電撃が発生する初代様の特別製。
アナの話では、初代はレイピアを愛用していたらしい。
そういえば、執務室の壁にレイピアが飾ってあった。
アナの勧めもあり、初代が使っていた片刃のレイピアを使う事にした。
見た目は軽そうだが、それなりにしっかりした重さがある。
断面が四角形のフルーレとは違い、三角形のレイピアには刃があって切る事もできる。
初代用に作られたこのレイピアは、私にもしっくりくる重さだ。
調整室に戻り、基本の型を映像通りにこなしていき、最後はマネキン相手にレイピアを振る。
このレイピアも剣先に特殊加工がされていた。
2時間しっかり訓練して、この肉体スペックで初めて汗をかいた。
浴室で汗を流してダイニングに行くと、すでにそこにはサラとアナの二人がいた。
「ご主人さま!そのレイピア、良くお似合いです」
笑顔のサラ。
初代はいつもこの格好だったのだろう。
一方、捕虜はただ寝るだけの空間に閉じ込められ、食事が最低限に制限されることで、肉体的にも精神的にも衰弱していた。
最終的に秘伝の薬草の効果で幻覚を見せられ、洗脳されていく。
司祭を除く兵士達は、農業に従事して畑を耕し、水を汲み、日々マクダネルに感謝の言葉を捧げているらしい。
今は外で杭につないでいる捕虜達だが、寝るだけの小さな区画の長屋が作られている。
完成すれば、この小屋に収容して、再教育するらしい。
学園に行くまで、あと数日というところで、元兵士2名を連れてアナは再びサラゴサまでの旅にいくことになった。
「ロキ様、また戻ってくるまで学園で頑張るのです!」
親しくなったせいか、呼び方が『ロキ様』に変わっていた。
元気な金髪娘は、大きく手を振って出発していった。
学園の施設として交易所がある。
交易所はその名の通り、物々交換もできる売店のようなものだ。
入学前に急に需要が増えて物価に響かないように、という配慮もある。
初代マクダネルが苦労したのは、筆記具だったそうだ。
インクも紙も高価だが、今年から鉛筆が登場した。
西のメンリオ村の木材と炭を使った特産品で、私のアイデアだ。
芯には黒鉛ではなく、炭と粘土を使うので、炭筆と名付けてもいい。
だが、消しゴムは無い。
交易所の隣に新しく設置したのが衣装部だ。
東のトルヒリ村から人を派遣してもらっている。
トルヒリ村では綿花や桑を育てて、繊維産業に力を入れていて、今後は染色や洗濯などの加工にも力を入れていきたい。
炭筆の支給と衣装部新設の通達発行をサラが引き受けてくれた。
A4のコピー用紙を嬉しそうに引き出しから取り出し、連合都市の首長あてに通達文を書きだした。
「やっぱりインクがにじみませんねぇ~ ふふふ」
うれしそうに手紙を3つ折りにしてから封筒に入れ、封をして郵便部隊に持って行った。
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