第20話 使徒と呼ばれる者達
誤字・脱字報告を頂きました。
ありがとうございます。
それにしても、これだけの情報を聴取するのは、さぞかし大変だっただろう。
「サラ、ありがとう。大変だっただろう?」
「いいえ、公安職と呼ばれる治安維持の活動は、私達使徒の役割ですから。これでもみんな3代目なんですよ」
「もしかして、5人のメイド達は、全員使徒で、公安職?」
「はい。そうです」
「全員が警察であり、検察であり、公安調査官であり、警備官であるって事?」
「呼び名は良く分かりませんが… ご主人さま。私達には嘘は通じないんですよ」
「そうなのか…だから正直、真面目が取り柄の私が選ばれたのか…」
「いいえ、そのような単純な理由ではありませんよ」
「初代様のお話では、ご主人さまのいらした国は世界的にも珍しく戦いの少ない国であったとか。その国では周囲に神の存在を感じ、2千年以上もの長きに渡って輪廻転生を繰り返し、魂の昇華を行ってきた民族だと言っていました」
「だからこそ、ご主人さまのような魂ができあがったのだと思いますよ」
いや、ほめ過ぎのような気もするが…。
もし、私に連綿と受け継がれた魂が宿っていたのなら、選ばれてもおかしくはないとも思う。
「サラ、聖域連合に他国の金貨が持ち込まれた場合の交換レートについては、知っていますか?」
「いいえ、本来は金の含有量を判定してから判断がされますが、まだ判定依頼は来ていません」
「つまり、貨幣の交換レートはカセレスで行っているという意味ですね?」
「はい。カセレスで造幣していますから」
執務室に移動すると150㎝ほどの小柄な少女がソファーに座っていた。
「ご主人さま!お久しぶりです。アナです」
「サラ姐さん、ただいま!」
そういえば、小柄な金髪娘がメイドの中に居たことを思い出した。
「アナちゃんか…どうしたのこんな所で?」
「『アナちゃん』て…ご主人さまと同じ歳なのですよ!『ちゃん』は無しでお願いします!」
「あぁ、ごめん」
自身のことを未だに15歳と自覚できていないのだ。
「サラゴサの偵察が終わったので、サラ姐に報告に戻ったのです」
マドリード経由で700Kmはあるだろう距離だ。
おそらく馬車で半月は掛かるだろう。
「それは大変な旅だったね。危ないことは無かったのかな?」
「馬車の旅は危険がいっぱいなのです。でも大丈夫。私が盗賊を2人倒して賞金ももらったのです」
小柄な少女が、すごい笑顔で物騒なことを言っている。
執務机に置いてある報告書に目を通す。
カセレスからマドリードまでの6日間、馬車が泊まる小都市や村で、必ず輸送業者に顔を出し、商業を営む業者からも情報を得ていたようだ。
「商人とはどんな取引をしているの?」
「少ない量で高価な品物、塩や香辛料を売ったり買ったりしながら利益を出して、ついでに銀貨や銅貨の傷んだお金を、入れ替えしてるのです」
どうやら、先代の時から劣化した貨幣の交換をさせていたようだ。
そりゃ、商人達にはありがたい存在だろう。
「貨幣交換の代わりに、私の手紙は無料で運んでくれるのです」
盗賊を倒したのも、たまたまではなく、護衛としての役割を担っているからだ。
首都マドリードでの滞在が1か月。
その間、徹底的に皇帝軍の部隊とその指揮官、及び武器の評価などが記されていた。
また市場の食べ物の値段、量、なぜか井戸の場所についての記述もある。
アナを敵に回すと、とんでもなく不利な戦いを強いられそうだ。
マドリードからサラゴサまでの8日間は、同じく、馬車の護衛と商人との取引である。
サラゴサはイベリア国の東部の都市であり、隣国アンドラからの支援を受けているとの噂のある都市だ。
だがアナの調査でも、市内にアンドラの兵も武器も見つける事はできなかったと報告書にある。
雑誌のヨーロッパ地図を再び広げて、初めてアンドラなどというミニ国家があることを知った。
そもそもピレネー山脈の盆地にある国家が、どれほど力があると言うのだろうか。
むしろ、イベリア国から侵略されないための協力関係を、相手が模索しているのだろうというのが、私の考えだ。
サラの反応と同じで、アナも綺麗で正確な地図に驚いていた。
だが、アンドラの向こうに有るフランク王国が、同じ地形とは限らない。
次元の違う世界なのだから。
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