第2話 再出発の場所
あの占い師が大きな屋敷の前に、商売道具の折り畳みテーブルを広げている。
は? ここはどこだ…?
占い師は私の姿を見つけて
「結果の確認に来たのですね?」
そういえば、抽選がいつで、どのように当選を知るのかでさえ確認していなかった。
「宝くじを出してください」
長財布から1万円札の隣に差し込んだ宝くじを全て取り出して渡すと、彼は宝くじの裏面を銀貨のようなコインでこすり始めた。
「えっ、スピードくじだったのか…」
「5枚全て買って頂きましたから、お屋敷もお金も当たっています」
「は? もしかして、この屋敷か?」
「はい。1等の副賞は美少女にしますか?それともスキルにしますか?」
彼の説明によれば、屋敷をもらっても一人では管理は出来ないから、元々この屋敷に居るメイドを一人、専属の従者として与えられるらしい。
「それじゃ、スキルってどういうものなんだ?」
「そうですね~、副賞で提供できるスキルは屋敷を自分で整備するための生活魔法や冒険者に必須の剣技ですね。生活魔法って分かります?」
今では年寄りの仲間入りをしているが、小学5年生でファミコンを買って遊んだ先進的ガキだったのだ。舐めてもらっては困る。
「生活魔法って、夢すぎるだろ」
占い師は子供のような笑顔をした。
「とにかく屋敷に入ってみましょう」
案内された屋敷の中には、メイドが5人並んでいた。
どうやら年齢順に並んでいるようで、高校生くらいから大人まで確かに美少女揃いだ。
だが、65歳の私では少女を使いこなす自信はない。
目が合ったのが、『サラ』と名札が付いた20代前半の最年長らしき女性だった。
最も肉付きが良く、完成された女性に見える。
「ご主人様、よろしければ私をお試しになりますか?」
いたずらっぽい笑顔で、とんでもないきわどい発言をしてきたサラ。
だが、こういうタイプの人も、きらいではない。
爆弾発言に頷くと
「カーン、カーン、カーン、カーン、カーン」
遠くの方から鐘の音が聞こえてきた。
サラ
「では、屋敷の外も少しご案内しましょう」
玄関から出ると、そこには映画で見るような馬車が停まっていた。
小石を踏む木製の車輪の振動は、ある程度、座席の緩衝材でましにはなっているが…
ほんの10分くらいで、大きな3階建ての校舎が並ぶ、学園とやらに到着した。
「1年生では、基礎体力の向上、計算、文字の読み書き、貴族社会のルールなどを、2年生では、農業、商業、戦闘術、生活魔法などを教わります。3年生は専攻科目の習得をして卒業ですね」
サラさんが、丁寧に説明をしてくれた。
教室には時計や照明器具はなく、訓練場には害獣とおもわれる獣の絵が飾られていた。
その絵の中には『ゴブリン』や『オーク』と思われる絵もある。
占い師
「今日はお時間のようです。心の準備が出来ましたら、宝くじの裏面を削ってください」
目が覚めたのは朝5時過ぎだった。
仕事をしなくて良くなった日に限って、こんなに朝早く目が覚めるなんて…。
仕方がないな…。
刺激的な夢のせいだろうか…。
気になっていた宝くじを確認するため、クローゼットに吊るした背広の内ポケットから長財布を取り出し、コーヒーを入れる。
まだ半分寝ている気分だが、宝くじの裏面を見て目が覚めた。
銀の特殊インクがはがされ、屋敷の絵と『当たり』の文字が見えている。
夢ではなかったのか! いや夢だった。
だが、現実でもあるらしい。
他の宝くじを硬貨で削ると『1等当選金 金貨6万枚』とある。
これは、日本円に換算して6億円ぐらいなのかな?
かつ、注釈には【両替資産(金貨841枚)は別途支給されます】と書かれている。
両替資産…見覚えのある数字。
これは私の預金口座の残高841万円だ。
退職金の半分を家内が持って行き、更にそこから5年間、私が生活費を引き出した残りだ。
なぜ私の預金残高を知っている?
いや、そもそも日本円が使えない所へ行くって事か?
せこいアイデアが頭に浮かぶ。
今、お金を下ろしたら券面の数字は変わるのか?
着替えて、早速コンビニへ。
いなかのコンビニにもATMはある。
6万円ほど引き出してから、再び、長財布の中の券面を見たが両替資産に変化はない。
つまり、使い放題って事だ…だが、少し不安もある。
更にもう1枚、宝くじを硬貨で削ると、『トランクルーム荷物引換券』とある。
注釈には【トランクルーム(4畳)分まで可能】と書いてある。
券面には、業者の連絡先記入欄があった。