第18話 司祭の取り調べ
平日は17時と19時の2回予約投稿の予定です。
聖域暦 157年7月
この時代の、いや、この世界の教会とは一体どんな組織なのだろうか。
私とサラは、特別に上級神という本当の神の存在を知っている。
だが、一般の人間はその存在を知らない。
教会は、その誰も知らない神を偶像化して拝み讃える事で、自分達だけは神の加護が得られるとでも考えているのだろうか…。
サラが司祭の所持品を確認したのだが、聖書や経典らしきものは無かった。
そもそも何を信仰し、何を教義としているのかでさえ、私達にはわからない。
サラは、司祭以外の兵士を全て倉庫から出して、男衆に杭につなぐように指示を出し、残った司祭を尋問している。
「ご主人様はもうお休みくださいませ」
自分ひとり、ダイニングで食事をするのは初めてだった。
いつもサラが側にいたからだ。
部下になったメイドが側にいるが、彼女の緊張感が否応なしに私に伝わってくる。
(名札を見て、名前を呼んでみた)
「ルシア、緊張しなくていいから」
「はい、ありがとうございます。ロキ様」
やや緊張が解けたようだが、スープ皿がテーブルに置かれた時の音は大きかった。
サラから教えてもらった話では、この惑星に人類が生まれ広がりを見せたあと、幾度かの災害により、地域的に大きな被害もあったらしい。
神であっても気象のコントロールは難しく、それこそ大気の成分や自転による空気の流れなど、ほんのわずかな空気の衝突で発生する竜巻や雹で、人間などあっという間に絶滅してしまう。
そんな地上のようすを、雲間から観察していても容易に把握する事ができないため、地上に下級神を遣わしたのが始まりだったそうだ。
元々人類は、持ち込まれたひな形となる遺伝子によって作られた存在だそうだ。偶然に生まれたり、進化によってできた存在ではない。
従って、この世界では原人などは存在せず、いきなり現代人として生まれたそうだ。
そこへ様々な遺伝子を持つ病原体が生まれ、地域ごとに異なる感染を経て、今の人類がある。
もちろん、環境に順応できた者が生き残る。
極地の地形や山脈の配置などによって、偏西風が今のように調整され、凶悪な環境でなくなったあと、400年の時を経て現在のように安定した人類の発展がある。
下級神は、各地に安定した生存環境が整った事を確認した後、カセレスを聖域とし結界を張って、この地に人間の姿となって定住した。
それが、157年前の事だそうだ。
寝室に隣接した浴室は、大きな岩に穴を掘った浴槽で出来ていて、木の浴槽とはレベルが異なる肌触りであり、これに湯を入れて浸かっている。
『カンカン!』
「ご主人様、入ってよろしいでしょうか?」
私の寝室には、サラだけ入室を許可している。
若返ったせいだろうか、私でも寝坊する事があるからだ。
「入ってくれ」
浴室の外でサラの足音がとまる。
「司祭から聴取しました内容につき、ご報告があります」
「悪いけど今日は疲れた…資料にまとめておいてほしい」
「わかりました。では失礼します」
いろいろ考えているうちに、ふと、上級神の期待を思い出した。
それは『秩序の維持』や『発展の促進』だった。
私の公式文書1枚目は住民台帳の作成。
ノートPCの在庫管理ソフトを立ち上げ、処分した在庫の削除をした。
次に住民登録用の画面作成。
管理番号、所在地、名前、性別、生年月日など。
集めてもらう情報を考えながら、サンプルを作った。
日本人として生まれ育った私の感覚では、天皇という権威があり、その下に権力者が居るのだが、民は天皇の宝とされていて、権力者は民を自由にはできない。
そのような体制を確立できれば、教会に対抗できる『権威』を得る事ができるだろうか…。
初代マクダネルは神であり、金鉱石や銀鉱石などは簡単に調達できる。西のアリセダの山に各種鉱脈を作り出し、そこの貨幣鋳造機で造幣すれば良いだけなのだ。
では、私はどうだろう?何ができるのか。
自分に出来ない事は、下級神マクダネル様に申請すればよいのではないか?
もしかすると言外にそのように期待されているのかも知れない。
そんな気がしてきた。
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