第13話 自治の無い村
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聖域暦 157年6月
最後の訓練地は南のメリダ村だが、西隣のバダホース村と同じく、自治の体勢ができていない。
勝手にこの地に住んでいるだけという建前だが、カセレスに保護を求めたために連合には加入できていて、学園に生徒を派遣している。
サラによれば、学園で読み書きを覚え自立できるようになった者は、半数は都市であるプラセン市に移り住んでしまうらしい。
かろうじて読み書きが可能になった落ちこぼれが村に戻り、マクダネルの指名により村長代理を務めていたが、税金を集めて自治を行うところまでは達していない。
川があるため農業にも適しており、西隣のバダホースまでの水上輸送と倉庫業で栄えている。
豚の畜産もしており、バランスが取れた自給可能な村なのだが。
問題は、村の中心を川が南北に分断しており、かつ、ほぼ平野部なため、外敵からの防御という点では不利だ。
村長や村民と話をしたが、村民の業種がバラバラなため利害の一致点がなく、村としてのまとまりが希薄なように思われた。
村内の川幅は、中洲も含め200mほどあり、今の技術では橋は掛けられないだろう。
現状の渡し船は、カセレス側である北に停泊場所があるため、主要な施設も北側に移転し、拡張することが望ましい。
だが、先代マクダネルもそこまで面倒を見るつもりもなく、現状で放置されてきたのだ。
今夜はこの村に宿泊することにして、多彩な材料を使った夕食をサラとともに食べた。
「食事だけなら、この村が1番だな」
「はい」
この宿の1階には、風呂もある。水が豊富な場所の特権だ。
翌日は、前回、馬での移動の練習のためにだけ訪れたバダホース村だが、メリダ村から出ている船便で、再度確認に行ってみた。
どちらも自治が確立していないため、道路や排水施設が整備されていない代わり、農業入植者が増えているらしく、露天業だけでなく商店で農作物は売られていた。
マクダネルの財源は、神の力によって鉱物資源を集め貨幣を造幣している事によって得ており、税に依存していないが、それでも学園の運営は異なる。
原則からいえば、非納税者は学園には入れないが、読み書き計算ができない者では生活基盤が成り立たない。ニワトリが先か卵が先かの議論になる。
だが、既に学園が成立して30年以上が経過しており、とりあえずの改革案として、住民のリスト作成が必要だと考え、村長宅を訪れた。
「サラ様、マクダネル様? 今日はどのようなご用件で?」
「こちらは2代目マクダネル様です。今日は村民の名簿作成の指示に来ました」
「えっ、名簿の作成でございますか?」
「そうよ、これからは納税をしない者を学園に入学させる事はできなくなります。そのつもりで名簿作成と納税を行いなさい」
「し、しかし、遊牧民はなかなかつかまらなくて…」
「いつまで同じ言い訳で通すつもりですか?農業従事者、船の運搬業の者もいるでしょう!」
「はい…ではそのように…」
まだ午前中でもあり、予定を変更して東北東方向にある『ミアハダス』という村を訪ねる事にした。
「さっきの村長、どうもサラに対して萎縮しているような感じだな~」
「そうですね…私も今日は妙に委縮しているように感じました。普段はあんな感じは無いんですけど…」
聖域カセレスの東の森から村まで直通の細い道があり、地政学的に重要な村だ。
朝7時に出発し、途中に休憩を入れて、15時に到着した。
小さな村だが、レンガの防壁らしき物が目を引く。
いつものようにサラが声を掛けたのは、ゲート前にいた青年だ。
「村長さんにお会いしたいのですが、どちらに行けばよろしいでしょうか?」
「貴方達は?」
「聖域カセレスから来た者です」
「嘘を言うな!メリダの方から来るのを見ていたんだぞ!」
「しっかり警戒しているのだな。確かにメリダに行ってから、こちらに来たのだ」
「……。」
どうしましょう?という顔で私を振り返ったので
「信用ができないというなら、無理にとは言わない。残念だが、またの機会としよう」
「サラ、村長が会いたいと思えば、結界ゲートを越えられるのか?」
「いいえ、無理でございます。入門許可申請書にマクダネル様の許可が必要です」
「そうか…、村長にはマクダネルが訪ねて来たと伝えておいてくれ」
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