第11話 プラセンの領主
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人口5万人の都市、プラセンの市場には、多くの商品が並んでいるが、一際目を引くのが陶器の存在だ。
「サラ、ここでは陶器が作られているのか?」
「いえ、これらの陶器はここから東方にあるタラベナ市の特産なのです」
「タラベナの陶器は、やはり金持ちが使っているのか?」
「主に色付きタイルなど芸術性の高いものは身分の高い者が使っています。」
私の知る陶器は、岐阜県の美濃焼きだ。
陶土を練って成形したあと乾燥させ、700℃程度の窯で素焼きしてから、釉薬をかけて約1200℃で焼いた「土もの」と呼ばれるものだ。
釉薬によって表面に薄いガラスのような膜ができるのだが、目には見えない無数の空気穴が空いていて、やや吸水性がある。
「単なる壺や器などは高価ではないのですが、やはり割れ物ですから、庶民は木製食器を使っています」
サラと市場を見て回ったのだが、確かに器の類は木製が多く、商業都市だけに貨幣が多く出回っていて、周辺都市の他の村のように物々交換ではない。
領主フェリクス氏の使いがやって来て、明日、面会できることになった。
翌日朝に迎えの馬車が来て、安全を確保するための護衛が先行して城に入った。
北東方向から続くイエルテ谷の終わりに位置するプラセン市だが、この城はその谷を避け、山脈を背にして、谷側が城の前方に来るように建てられている。
戦いでは、このような位置取りが勝敗を決めてしまうのだろう。
「マクダネルさま。ようこそおいで下さいました。私はプラセン市の領主フェリクスでございます。」
「ロキ・マクダネルです。端的にお聞きしますが、タラベナ市の領主フラビオ家に何があったのですか?」
「その事なんですが…おい、エレナを呼んできてくれ」
エレナさんというのは、領主フラビオの妻で、ベラスコ司祭が来るという先触れに接し、夫が急遽、このプラセン市に避難させた人だった。
なぜ避難させたのかについて、妻のエレナさんは
「夫はベラスコ司祭という人物の素性が不明な事と、護衛と称する私的な戦闘団を連れていたため、危険な人物ではないかという疑念を持っていたようです」
「それで家族が人質にならないように、貴方達を逃がしたのですね?」
「はい、護衛10名と共にフェリクス氏を頼って避難しました」
宗教組織が戦闘団を連れて他の都市を占領するなど、思いもしなかったのだろう。
そしてベラスコ金貨は、タラベナ市を占領したベラスコ司祭が支払いに使っている金貨なのだ。
この時代、生活に精一杯であり、治安維持の警備部隊はあっても、防衛というものにはそれほど重点は置かなかった。
それでも、はるか東方から異民族の襲来などという噂が原因で、カセレスの集団防衛組織ができたのだ。
そう考えると、タラベナ市は危機意識が低かったのかも知れない。
プラセン領主フェリクスと、タラベナ領主フラビオ家の者に、ベラスコ司祭を追い出すための私なりの策を話した。
「要は、『ベラスコ司祭が来てから良い事が全くない』、『ベラスコ司祭には神の支持が無い』。そう思わせることで、フラビオ家の復帰を望む声は大きくなるだろう」
それは相手の収益源を絶つ事。
タラベナ市の産業は陶器なので、それをプラセン市でも生産可能にする。
フラビオ氏の後継者が避難してきているので、時間を掛ければ可能だろう。
もうひとつは、ベラスコ司祭の教会作りを妨害すること。
こうなった以上、タラベナ市との交易は禁止するべきだろう。
そして、徹底したゲリラ作戦を辛抱強く実行するしかない。
これについては、同意のようだ。
私が学園に入学する前の偵察訓練で来たことを話して、聖域カセレスへの帰都を了解してもらった。
偶然にせよ、聖域連合に対する侵略に早期に気づけたことは大きい。
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