第1話 65歳になった
1話1500字~2000字程度で投稿します。よくあるテンプレものです。皆さんの暇つぶしになれば幸いです。
新しく現代恋愛ものを書きました。
小学生侍になる - 俺の東京出世物語 興味があれば、こちらもご覧ください。
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通行人のまばらな地方の商店街。
大半の商店はシャッターに貼り紙さえなく、休みなのか廃業したのかも分からない。
そんなシャッター商店街の中で、西洋人のイケメン青年が占いのテーブルに座っていた。
あまりの不自然さに
「留守番を頼まれたのかい?」
と声を掛けてしまった。
青年
「いえ、あなたを待っていたんですよ」
「おぉ~ 日本語が上手だね~ それにしても、私を待っていたとは、どういう事かな?」
60歳の定年まで首都圏で勤務していたのだが、年金がもらえるまでの5年間、両親の住む北陸のリサイクルショップに戻り、事業を引き継いでいた。
地方とは言え、それなりの家柄であった父が、何でも鑑定士なみの趣味の広さを活かした事業ではあったが、正直、父が倒れた時に全て清算しておくべきだった。
私も、この青年ほど口がうまければ…少しは事業に貢献できたのかも知れない。
「どうぞお座りください。納得頂けなければ、お代は頂きませんから…」
明日からの予定さえ無い私には、外国人青年の占いは、実に興味深い暇つぶしだ。
「えっ、本当に占いするの…それじゃ~、お言葉に甘えて…」
「とりあえず、目を見せて頂けますか… まっすぐに私を見てください」
なぜだか、目が離せなくなる感じがした…。
「まじめに生きて来られたんですね…」
確かにそれが唯一の取り柄だとも言える。
だが瞳の奥に、そんなものは見えないだろう?
「まぁ、大した成果もなく、大きなミスもなくってところだけどね…」
「それで、今日が退職の日ということですか…」
「えっ、どうして分かるんだい?」
段々と本当の占い師なのか?と信じ始めていた。
青年は実家のある海側を指差して
「この商店街の奥には工場と倉庫ばかりで飲み屋は有りませんし…。今はまだ18時を過ぎた所ですから」
私の納得していない表情を見て、更に説明を続けてくれた。
「それに、お歳からすると、退職され事務所で少しばかりのビールでささやかにお別れ会…そう推察したまでです」
「なるほどな…、確かに。すぐに顔が赤くなるんだ…下戸でね。今日で会社は畳んだんだ。手伝いの従業員たちに少ないが退職金を渡して、お別れ会だったのさ…」
親の事業と家を継いだのだが、昨年に母も亡くなり、続ける理由もなくなっていた。
在庫の処理は、まだ終わっていない。
無趣味な私だったが、さまざまな品物がどういう経緯で店に来たのか、母が思い出す話を聞いて、それなりに楽しかった。
印象に残っているのは、小さな置きこたつの話だ。
お婆さんの所に孫がやってきて、小さな置きこたつを置いていった。
火鉢の代わりに、体をもたれさせる事もできるし、布団を掛ければ温まる事もできた。
こたつと一緒に孫が置いていった茶封筒には、『これを使って』と書かれた手紙と、綺麗なお札が入っていた。お婆さんは説明通りに、綺麗なお札をペタペタと、置きこたつの木枠に貼り付けて使っていたのだ。
孫が置いていった綺麗なお札とは、明治22年に発行された「改造1円券」と呼ばれた鮮やかな色のお札だった。
後に、お婆さんは近所の人達に、それがお金だと教えられて、初めて紙幣というものを知ったそうだ。
占い師の青年がタロットカードを1枚ずつ机に並べていく。
「お客さん…お客さん!」
「おっと失礼…少し昔の事を思い出して…」
「これからの人生は運に恵まれるようです。良ければ宝くじを買いませんか?」
そう言って5枚のカードを、扇子のように私の前に広げた。
するとタロットカードは宝くじに変わっていた。
(おいおい…手品師か?)
この青年のする事は飽きない。
「何が当たるんだね?」
「第2の人生のための、お金やお屋敷です」
「お金とお屋敷か…賭け事はやった事がない分、刺激的だな…」
どれにしようかと、カードを目で選んでいると
「どれほど運が良くても、1枚ではどれか1つ。どうせなら5枚全て買いませんか?」
「いくらだ?」
占い師は、券面に印刷された金額を指差しながら
「宝くじを買うのも初めてなんですね。5枚で5万円です」
「うむ、確かに買ったことは無いが…。結構高いものなんだな」
「はい。このくじは確率が高いですから」
余興と思って買った5枚の宝くじを大事に長財布に入れ、商店街を駅方向へ歩き出す。
意識はすでに、今夜の夕食に向いていた。
何にするかな…
自分自身に『何が食べたい?』と問うことも、『刺身なんてどう?』と反応することにも、すっかり慣れていた。
食事を適当に済ませ、これからの生活の楽しみについて妄想にふける。
いなかの町特有のさびれた喫茶店に入る。
「から~ん」
ドアの鈴の音はまだしも、観葉植物がじゃま!と言いたくなる店内。
コーヒーを飲みながらスポーツ新聞のタイトルだけを見て、再び店舗兼自宅に帰る。
商店街には既に占い師の姿はなかった。