表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Réglage 【レグラージュ】  作者: じゅん
ザウター『オメガ220』
56/317

56話

 「ウチの調律ではないんだよね。アトリエ・ルピアノは、そのメーカーやそのピアノの長所を伸ばすことを一番にしている。例外もあるけど、少なくとも無理やりそっちのほうに引きずり込む調律はやっていない」


 間違いなく、自分達の商品として、自信を持って売れる品であることは言い切れる。しかし、イレギュラーな点を踏まえると、どうしても心からオススメできるのかと言われると、しこりが残る部分もある。葛藤しつつも、現状維持のまま、販売は続けていている。


「難しいですね。自分なりになにか変化があって変えていこうと決断したなら、それもありですけど、そうじゃないなら」


 と、チラリとランベールは店内の隅を見やる。そこには、サロメの調律道具をまとめたキャリーケースが置いてある。デルセーの小型で、だいぶ長いこと使っているのか、ボロボロである。


「もしかしたら、調律師を辞めるのかな」


 一台のアップライトの蓋を閉めながら、物悲しげにロジェは呟く。なんとなく、全台見出したことと、心境の変化を感じ取り、そんな気がしてきていた。色々と迷惑をかけられてきたけど、それはそれで楽しいものであった。なにより、彼女に未来の調律師の姿を重ね合わせている。技術があり、野心があり、誇りがある。そんな、理想像を。


「それはないですね、断言します」


 アホくさー、と自分の仕事に取り掛かろうと、ランベールはイスから立ち上がる。辞める? ないだろう。世界中のピアノを一台残らず調律して生き返らせようとしてる、という方がまだ嘘くさい。結局、何の時間だったんだ、と思考を切り替える。


「そう? まだ一六歳だ。あれだけの実力があるなら、僕はもちろん残ってやってほしいけど、違う道を選ぶというなら尊重したい。でも辞められちゃうと困るんだよぉ」


 バインダーに留めた資料を眺めながら、ロジェはそうなってしまった未来を想像し、青くなる。予定にはサロメサロメサロメサロメと、びっしり詰まっている。


 まだこの人はそんなこと言ってるのか、と一応ランベールは問うてみる。


「なにかあるんですか?」


 これだよ、とロジェは資料を見せてくる。


「配信の影響がまだかなりあってね、彼女を指名してくれてる方が多いんだ。違う人なら、今までの調律師で充分て言われちゃってる」


 最近で一番思い出したくないことを思い出し、ランベールは過呼吸になる。人生で一番冷や汗をかいた。ふざけ半分であの爆弾を世界に向けて送り込むんじゃなかった、と。


「そんな客寄せパンダみたいな……ことをさせたのは我々ですね」


 その点は少し反省した。


「サロメちゃんもサロメちゃんで、嫌な顔せず全部受けちゃってるから、相当先まで埋まってる。こんなこと今までなかったのに」

続きが気になった方は、もしよければ、ブックマークとコメントをしていただけると、作者は喜んで小躍りします(しない時もあります)。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ