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51話
「今日は本当にすみませんでした。また、最後の調整で、来週の水曜日に来ます。あたしじゃないかもしれませんが、よろしくお願いします」
車で送って行くよ、とマチューに言われたが、食事を済ませると体調は七割がた回復した。やはり食は大事だとサロメは痛感した。歩いて帰ろう。一歩一歩、ゆっくりと。
「うん、ゆっくり休んでね。気をつけて。ありがとうございました」
しっかりとした足取りで帰っていくサロメが、群衆に紛れて見えなくなるまで、マチューは見送った。どうやらネット上では少しだけ、古書店にピアノというのが話題になっているらしい。さすが世界一有名な古書店。自分で言うのも恥ずかしいけど。明日からまた忙しくなるかもな、嬉しい悲鳴を上げつつ、店内に戻っていく。
地下鉄に乗ってサロメは寮へ戻る。窓に寄りかかりながら一日を振り返った。
「グロトリアン・シュタインベーク『シャンブル』……違う。けど、すごくいいピアノだった」
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