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Réglage 【レグラージュ】  作者: じゅん
シュルツポールマン『S278』
326/326

326話

 オーストリア、ウィーン。音楽の都と呼ばれるこの地では、ハイドン、モーツァルト、シューベルト、シェーンベルクなど、数多くの作曲家が活躍してきた。三大ピアノメーカーに数えられるベーゼンドルファーもオーストリアで創業されており、クラシックの本場のひとつである。


 国全体、街全体が音楽で彩られており、コンサートカフェも人気で、かつてはウィーン出身の作家や文豪達が溜まり場として利用していた。観光客も音楽と、ザッハトルテなどの甘味を同時に楽しむことを目的として訪れている。


 宮殿を再利用した、とあるカフェ。シャンデリアや幾何学的な天井が特徴的なこの場所で、多数の客に混じってソファチェアに座るその男は、対面の人物に問いかける。


「『左手のためのピアノ協奏曲 ニ長調』。これは誰のためにラヴェルが作曲したか知っているかい?」


 言い終わりにコーヒーを口にした。カップを置くと、その左手が勝手に踊る。曲名を出すと、反射的にやってしまう。癖。職業病。だが、それがいいと思っている。


 ラフにスーツを着こなす男の名前はカイル・アーロンソン。世界各国で演奏をするアメリカ出身のプロのピアニスト。双子の兄であるグラハムと『アーロンソン兄弟』として活動している。


 オーストリアにはコンサートのために来ており、数日後に開催されるものはすでにチケットが完売。プログラムも現地の人々が喜びそうなものを選んである。コンクールではない。コンクールには出ない。自由にやる。空中で弾いたりとか。そういうのに憧れる。


 その話し相手。緊張した面持ちの、まだ少年といって差し支えない年齢だが、対照的にスーツをかっちりと着こなす男性が返答。


「……パウル・ヴィトゲンシュタイン、ですか」


 ランベール・グリーン。パリ出身の学生。学生であり、一応は見習いのプロの調律師でもある。兄弟専属のというわけではないが、今回のヨーロッパにおけるリサイタルの調律をメインでやることになっている。元々はピアニストを目指してこともあり、弾くほうも堪能。

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