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Réglage 【レグラージュ】  作者: じゅん
ザイラー『マエストロ』
306/317

306話

 三者三様に店内を物色していると、そこへ店員の男性が近づく。


「どうもいらっしゃい。なにかお探しですか? こちらのアップライトなどはかなり弾きこまれて——」


「あー、そういうのいいから。ていうか。もうちょっとちゃんとここの店のピアノ、調律したほうがいいわよ。依頼は受け付けるわ。ウチの店の誰かが」


 手で接近を制しながらサロメが毒づく。そして宣伝、からの他人へのなすりつけ。流れるように。そして店内のピアノ。アトリエだったら絶対に見逃していないユニゾンの心地悪さ。それが耳につく。


 見えない圧に押され、店員は足を止める。むしろ仰け反り気味。目もパチパチ。


「……えーっと、キミ、は?」


 なんだかものすごい悪意を向けられているような。そして八つ当たりされているような。ともかく、そのあたりの探りを。


 眉間に皺を寄せながらサロメが応える。


「三区のアトリエ〈ルピアノ〉のしがない調律師よ。ここの調律担当は大したことなさそうね。ピアノが悲しんでるっつーの」


「え、あの〈ルピアノ〉?」


「あの?」


 店員の驚きに対して、見ていただけのハイディがひょっこりと割り込んでくる。『あの』。なんとなく、悪名高そうな方向性の『あの』。


 まずいことを口走ったようで、店員が「やべ」という表情で口を結びつつ。


「……なんかすごい問題児がいるっていうのは聞いた……ことがある、かも」


 と、やんわり知っている情報を吐露。「もしかして……」という予測付き。


 その空気を悟ったのか、サロメの目線は上へ。


「あー、それなら今コンサートチューナーとしてどっか行ってるわ。だから今は平和。平和なアトリエ」


 自分ではない。絶対そう。あいつに決まってる。あたしは実力も接客も優良ないち調律師だから。顧客は満足させ続けてきたから。

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