303話
過去の話。少々ロゼアも気になる。
「へぇ、そいつもいいヴァイオリンを製作するのかい? 是非とも会ってみたいところだね」
果たしてどんな音を作り出す人物なのか。興味がある。M.O.Fの心に残る人物ならきっと面白いのだろう。だが。
「今どこにいるのか、さっぱりわからん。それにあいつはヴァイオリンじゃない。ピアノだ。調律師」
ヨーロッパとかオセアニアとか東南アジアとか。不確定な情報はリシャールの耳にも度々入ってきていた。しかし信用できるものはなにもなく、別に調べる気もなかったので放置していた。
当然ながら、弦楽器に関しては玄人であっても、鍵盤楽器はそうではない。ピアノというものは他の楽器ついでに、という生半可な考えでは到達し得ないほどに複雑。一万以上のパーツの集合体。
それをわかっているからこそ、ロゼアは口惜しい。主役をいつも掻っ攫われる。
「調律師……面倒な連中だね。ピアノこそが楽器の王、とか考えているヤツらだ。ヴァイオリンこそが王だというのに」
手に持てるほどの大きさで、落札価格は千万ユーロなど優に超える。ピアノはあの大きさで数百万程度。な?
しかしそれをリシャールは諌める。
「別に誰が王とかないだろ。どの楽器にもそれぞれ役割がある。たまたまあいつはピアノで、俺もロゼアもヴァイオリンなだけだ。ムカつくことに、調律師としての腕であいつ以上の人間は見たことない。だから似てるんだよ、キミ達は。そのしょーもない性格含めて」
その点、自分はある程度は常識がある、と認識している。あいつがあまりにもぶっ飛んだヤツだったから。それが上手いこと反面教師として。




