30話
本来調律は一、二時間くらいは余裕でかかるものであり、短時間でできる作業ではない。だからこそすでに調律が終わっているものを持ってきたのだが、サロメの技術で無理やり、枠内に収めきった。
全く違うシナリオになってしまったパスカル陣営ではあるが、幸い、視聴者は満足している様子なのが救いだった。このあと試弾があるが、それもやっていいのか判断に迷っている。
とりあえず視聴者からの疑問を、パスカルが代表して質問する。
《終わりですか? すいません、非常に早かった気がするのと、あとコメントからたくさん来てたのですが、ちゃんとハンマー回せてる? 実は新人? なんて意見きてますけど》
《は? 誰に向かって言ってんの?》
「「「あ」」」
……三人は各々、頭を抱えた。
「……まぁ、よく持ったほうだ」
「ですね」
「……お疲れさまのケーキ、買ってこようか」
一瞬、時が止まり、コメントも『え?』『おいおい』と驚きの声が上がる。逆に『好き』というのもある。人間は変化に適応するのだ。
《やだー! そんなことないですぅ! ぜひ弾いてみてください! でもダメだったらどうしよー! ヤバ! 緊張ヤバ!》
「いや、もうだめだろ」
「出たね」
「出ちゃいましたね」
一回バレてしまえば三人とも緊張の糸が切れたようで、さっきまでで凝り固まった体をストレッチするなり、イスに寄りかかって天井を見つめて深呼吸など、この後の仕事再開に向けて準備をしだす。もうどうにでもなれと。
《じゃあちょっと失礼しまして》
コメントが先ほどからざわついているが、あえてスルーして進行するのも腕の見せ所であるとばかりに、パスカルはイスに座り、準備をする。
(全然台本と流れが違うじゃねーか! なんなんだあの女は……)
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