296話
この子と。ベル・グランヴァル。ブリジット・オドレイ。ヴィジニー・ダルヴィー……だったかな。ん? なにかサロメにはしっくりとこない。
「あとひとりいたような気もするけど。まぁいいわ。で? ピアニストは見つかったわけだけど、どういう風にピアノ選ぶの?」
今回の目的はあくまで、というか全てピアノ購入のため。それは調律師ではなく、購入する人物の基準に合わせる必要がある。予算や使用する人々。そういったものに対して、アドバイス程度しかできない。
「スタジオはコンクール用の録音やレッスンなどが多いので、どちらかといえばそういう感じでお願いします」
遊び、というには少々本格的。もしかしたら自分の職場から、スターが誕生するかもしれないという可能性。ならばハイディにとっては、全力でバックアップするだけ。自分だけではどうにもならないから頼る。
幸いなことに、評判が評判を呼びそれなりに予定はびっしりと埋まっている、と両親からは聞いている。弾く側ではないため、パリは本場、コンセルヴァトワールと言われてもピンとこないけども。それほどピアノというものは需要があるんだ、と驚いた。
販売、という点ではピアノは世界的にも右肩下がりらしいが、子育てや老後の趣味として、楽しむために習ったりする人も結構いる。なんだか。嬉しい。
そういう感じ、と言われても、それならサロメとしてはなんでもいいならスタインウェイとか推したいけども。
「なんだか随分とふんわりした要求ね。で、どう? いけそう?」
「問題ない。というか、私が弾きやすいやつを選ぶ。それだけ。経営とか知らない」
話を振られたカルメン。なんだかよくわからないけど、とりあえず弾いてみて自分にいいと思ったピアノを選別するのみ。スタジオ? 売上? そんなものは度外視。そのために来たのだから。




