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Réglage 【レグラージュ】  作者: じゅん
ザイラー『マエストロ』
275/317

275話

 そこに、パーテーションからひょっこりと顔を覗かせる人物。


「本当にダラダラとした人なんですね。これがパリでも随一の調律師というのは恥ずかしいです」


 少女。客、というには辛辣な意見。目を細め、威嚇するような。


「……あんた誰?」


 店内に人がいることはわかっていたサロメ。だが、開口一番に事実を突きつけられて、なんというかこう、むかつく。


 ゆっくりと全身を見せる。モンフェルナ学園初等部の制服。無理に作り笑いをした少女は手を差し伸べる。握手。


「ハイディ・ゼナティ。あなたにピアノ購入の手伝いをしてほしくて来ました。よろしく」


 悪意の漏れた言の葉。信用? していない。信頼? できるわけがない。そんな手のひら。


 それをサロメは感じ取っている。つまらなそうに眉根が寄る。ぶっきらぼうに。


「社長さーん」


「なんだ?」


 嫌な予感がするルノー。いや、落ち着け。冷静に冷静に。


 まだ微笑みながら伸ばされている小さな手。それをじっと見つめながらサロメは少女を分析。


「いい子、って言ってたわよね」


 分析完了。どう考えても物腰は柔らかでも強気で傲慢で勝気な。自分のことはさておき。一瞬想像した『いい子』像からは外れている。もっとこう、懐いてくる犬のような。なんかそういうのが感じられない。


 実はルノーにとっても、ハイディがこう好戦的な性格であることに驚きを隠せない。深く息を吸う。


「……敵を欺くにはまず味方から、という孫子の兵法があってな」


 苦しい言い訳。というか。別にまだいい子じゃないと決まったわけでもない。ちょっとこいつと反りが合わないだけで。


 ソンシだかケンシだか知らないが、そんなことはサロメにはどうでもいい。


「欺いてどうすんのよ。ハイディ、って言ったっけ。あたしはね、高いのよ。子供のお小遣いでなんとかなると思ったら大間違いよ。適当にお菓子あげるから。さっさと帰んなさい」


 値下げはするな、というのはこの店のスタンス。値段に合った仕事をする。自分の力量に自信はあるからこそ。

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