表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Réglage 【レグラージュ】  作者: じゅん
ペトロフ『ミストラル』
254/317

254話

「……お前は型にハメるのは合わないだろうからな。間違いなくコンクールでは異端児扱いだ。絶賛されるか酷評されるか極端な結果になるだろう」


 そうであれば自分もこいつもここまで世界を飛び回るような、そんな活躍には至っていないだろう。いや……弟だけならもしかしたら……自分が足を引っ張っているような。そんな後ろ向きな考えがグラハムに浮かぶ。


 なんとなく兄の考えていることはわかる。どうせ僕だけなら、とかそんなつまらないことに支配されているに違いない。相手の言い淀みからカイルはそこまで推察した。


「世界が求めているのは『革命』だと思うんだよね。眠くなるようなクラシックはいらない。それこそ僕は絶賛か酷評か。どちらかが本当は欲しいんだけどね」


 そしてそれはコンクールでは手に入らない。天井からミラーボール出してみたりとか。『ミッション・イン・ポッシブル』みたいに、空中から吊るされて弾いてみたりとか。そういうやつ。


 言いたいことは長い付き合いでわかる気もするグラハム。だが、そうなると曖昧に進んでいる事象がひとつ。


「そのためにあのサロメ・トトゥが必要なのか?」


 言い方は悪いかもしれないが、ただひとりの腕のある調律師。それだけ。恋愛の対象としてみているわけでもないだろう。なぜだ?


 そうなった場合。彼女が調律したピアノが毎回準備されていることになるわけで。回数を重ねるごとにより、お互いの理解は深まっていく。カイルも窓の外に目を向けた。


「そうなればありがたい。単に僕はクラシックというものをもっと詳しく『味わいたい』んだ。名を残したいわけでもない。彼女の調律したピアノで弾くと、まるで自分の腕が上がったように感じる、というのは事実だけどね」


 上手く、よりも深く。弾く、のではなく潜る。宇宙よりも深海のほうが探索が難しいように。共に目指せる相手、というのはそういないだろう。


 確固とした自分だけの世界を持っている。それはグラハムにとって羨ましくもあり、恐ろしくもある。


「お前の考えは読めない。どこに向かおうとしている?」


 名声などではない、ピアニストの頂点とは? 誰を基準とした頂点? ラフマニノフ? ルービンシュタイン? バックハウス? そのどれもが違う気がする。


 小休止的に場が静まり返る。お互いになにを言ったらいいのかわからない。答えがあるのかもわからない。答えられてもそれが答えなのかもわからない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ