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Réglage 【レグラージュ】  作者: じゅん
メイソン&ハムリン『CC』
219/317

219話

 そしてスタインウェイなどのアメリカ式に多いのが、ブリッジとヒッチピンの間にさらに一枚『サプリメンタルブリッジ』という駒を噛ませる方式。スタインウェイがフレームと一体化したサプリメンタルブリッジなのに対し、メイソンは独立したものを使っている。


 そのメリットとは? 一体化したものより、任意で位置を変えることができるため、さらに一段上のレベルで同じ周波数の音、つまり共鳴音の高さを完璧に揃えるカラクリとなる。実力のある調律師ともなれば、他のグランドピアノを独立型に改造する者もいる。


 自分がこの子くらいの年齢の時、絶対にここまで理解していなかったな、とアレクシスは感嘆しかない。


「よく勉強している。優等生だね。ファツィオリなんかがこれには注目されがちだが、メイソンやチッカリングなどのアメリカの歴史あるメーカーにも採用されている。明るく、高次倍音を伴う余韻。イタリアの雰囲気もあるね」


 世界最高のピアノメーカーのひとつ、ファツィオリもこの独立型を採用している。音の伸びが他とはっきり違うため、この路線で突き抜けていった印象さえある。


 ここまでの情報をランベールはまとめてみる。リヒャルトが学び、生かしてきたであろうピアノの再現。各国のいいとこ取り。


「アメリカの力強さ、ドイツのカッチリとした芯の強さもあり、イタリアのような伸びのある高貴さも持ち合わせる。そんな調律、ということ」


 それぞれ相反しているのでは? という矛盾さえ感じるが、そんなものがもし可能であるならば。見たい。そして聴いてみたい。そして——。


「難しいけど、あれこれ考えてまとまらないよりはいい。『演奏者はタッチを通じて楽器の魂に触れ、最高の響きを引き出す』。我々ができるのは、弾き手にこういうピアノだと、言葉ではなく音で気づいてもらうこと」


 弾き手の技術はこちらでもどうにでもならない。ならばこそアレクシスは自分の分身であるようなピアノを提供するだけ。迷いは音に出るのだから。


 そしてその名言ぽいものはランベールも知っている。彼のような音を出したいと願っていた。


「パウル・バドゥラ・スコーダの言葉ですね。ウィーンの三羽烏。なるほど、勉強になります」


 世界的な指揮者、フルトヴェングラーやカラヤンに認められた、オーストリア出身のピアニスト。彼の音楽的な理論は非常に興味深いため、何度も聴き、奥底まで潜った。特にピアノには全ての音に『ノイズ』が存在するという考え方には衝撃を受けた過去。

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