表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Réglage 【レグラージュ】  作者: じゅん
エストニア『ザ・ヒドゥンビューティ』
121/317

121話

「はぁー、なんつー最悪なユニゾン」


 パリ北駅のプラットフォームには、常時何ヶ所かストリートピアノが置かれている。そのため、初めてこの駅に降り立って迷うと、たいていはどこかの設置場所にたどり着く。少女は、決して迷子ではない、と自分に言い聞かせつつ、聴こえてきた音に反応した。


 大屋根に覆われたこの場所は、外よりかは幾分かマシだが、それでも当然ピアノを置く環境として良いわけがない。温度も湿度も変化し、木は膨張と収縮を繰り返してピッチは安定しない。列車の音でちゃんと聴こえないし、少女は好きになれない。


「……たしかスパークスもこの駅で弾いてたわね」


 アメリカのバンド、スパークスがかつてパリ北駅に来た時、アップライトのストリートピアノを弾いてSNSにあげていた。きっと彼らの満足のいく音なんて出せないのに。まぁ、そういう目的じゃないんだろうけど。パフォーマンスだってわかっているけど。


 隅っこのほうに今も置かれているピアノ。旅行客らしき男性が弾いている。あまり上手くない。が、楽しそうだし周りも数人集まっていて聴き入っている。こういうのもありなんだろう。ピアノには様々な楽しみ方がある。


 あたし? あたしは楽しいとか、そんなものどうでもよくて。ピアニストの名前もあまり知らない。知る必要もない。


「一体、どこにたどり着くのかね。最終的に」


 あたしの終着点はどこなのだろう。少なくとも、プラットフォームにピアノを置くような駅ではない。理想としては、お金持ちと結婚して、余生はモナコあたりで毎晩パーティー。『華麗なるギャッツビー』みたいに。


「いや、『クレイジー・リッチ!』みたいに控えめで気の利く男で……いやでも、あんまり嫉妬されまくるのもなぁ……」


 その頃にはピアノも調律も忘れていたいから、ピアノとは全く関係ない人で。そんな妄想を繰り広げながら、パリの夕は暮れていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ