111話
ロシアでは、幼少期から他とは違う伝統的な教育法でピアノを学んでいる。二〇世紀の偉大なピアニスト、タチアナ・ニコラーエワはそう語った。モスクワ音楽院をベースとした、代々受け継がれていくロシア奏法。ネイガウス・ゴリデンヴェイゼル・イグムノフ・フェインベルクという名ピアニストを祖とする四派。それぞれ違った個性を持つ。
この中でネイガウスだけが源流を辿るとショパンに、他の三名はリストに行き着くとされている。ショパンとリストは全く違うピアノに対する認識、いわゆるピアニズムを持っており、奏でる音の厳格さや柔らかさなどもまた大きく異なる。とはいえ、もちろんそれぞれピアニストには個性があり、同じ流派でも正反対の音を持つ者も当然いるわけで。
ではなぜロシアは他のヨーロッパと毛色の違う扱いがされるのか、という点について様々な意見があるが、まずひとつはクラシック音楽の発展が遅かった、ということにある。一九世紀になってようやく少しずつ、というゆったりとしたペース。それまで音楽といえば教会などでの歌がメインであった。それゆえにその思想が根付いており、ロシア音楽はピアノを『歌わせること』に重点を置く。
重力や脱力を念頭に置いた奏法などを重要視するピアニストもいるが、それもまたひとつの正解。『歌わせる』という土台に自分のエッセンスを上手く融合させた形こそが、ロシアピアニズムなのだ。




