表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Réglage 【レグラージュ】  作者: じゅん
ガヴォー『モデルT』
1/309

1話(イラストあり)

 目を閉じる。閉じた目の前には一台のアップライトピアノ。マホガニーでできている年代もの。メーカーはプレイエル。フランスの老舗メーカーだ。


 イスに座り耳を澄ます。八八ある鍵盤を二つ叩くと、大きく唸りが聞こえる。それもそのはず、もう数年に渡って弾かれておらず、調律などされていない代物だからだ。


 このピアノの所有者は、孫がピアノを習い出すから使えるようにしてほしいということだった。ずっと昔に自分が弾いていて、それからしばらく使われていないものらしい。ここまで年代ものになると、所有者の自宅でどうこうできる問題ではない。工房に持って帰ってオーバーホールしなければこのピアノは蘇らないだろう。いや、持って帰ってもどうなるかはわからない。中も虫やネズミに侵食されているかもしれない。


 提案と見積もりを出すと決まって返ってくる言葉がある。


「それなら電子ピアノに変えようかしら」


 非常にもったいなく思う。響板さえ割れていなければ、いや、割れていたとしても合うスプルース材さえあれば唯一無二の音が蘇るのに。それだけのポテンシャルを秘めている。プレイエルのマホガニーを売却なんて、ショパンが生きてたら背後からドロップキックかまされるぞ、とひとりごちて男は正気に戻る。


 このピアノをどうするかは自分には決められない。本当のこのピアノの音を聴かせて、思いとどまれと言いたい。だが、それは自分達の仕事ではない。男は作り笑いを浮かべる。


「当店にも中古の良いピアノがありますが、そちらはいかがでしょうか」


「いや、またメンテだのなんだのって面倒よ。電子ピアノにするわ。あの子だってどこまで本気でやるかわからないし」


 これも時代の流れか。騒音の問題などもあるだろう。お隣の国ドイツでは、州によっては日曜日は掃除機をかけることすら禁止されているような厳格なところもある。ピアノなんてもってのほかだろう。


 もう一度プレイエルのピアノを見据えた。ショパンが泣いているようだ、と感じた。それでもお客様の要望に応えなくてはいけない。


「かしこまりました」


 調律師。世の理に逆らう者達。


挿絵(By みてみん)

続きが気になった方は、もしよければ、ブックマークとコメントをしていただけると、作者は喜んで小躍りします(しない時もあります)。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 曖昧な表現では全く伝わりませんでした 大変失礼しました 改めて投稿しなおします 『プレイエルを電子ピアノに変えちゃうやつは、 ショパンに蹴られて死んじまえ』(字余り) というのがこの調…
[良い点] プロの価値観と顧客の要望の対立 他の分野でもよくあるものですが、 積み重ねてきたものの価値がわかってもらえないのは悲しいことです にしても、プレイエルとは羨ましい…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ