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VS放火魔B

作者: 馬場悠光

※前作の、【VS 大怪盗Y】をまだ読んでない方は、それを先にそれを読む事を、お勧めします。

VS 放火魔B

                           作者M・M  原案Y・Y

 「じゃあな」

  午前一時…

天上智勝は仲間と別れ、暗い裏路地を一人で歩いていた。

  天上は中学校卒業後、家を出て小さな会社に就職したが、この不況の中、人材の削減のために一年ほど前会社をクビになってしまったのだ。

  中卒の天上にはほとんどいい仕事が見つからず、困り果てていた天上に光が差し込んだのだ。

  中学時代の友人があるグループに入っており、お前も来ないかと誘われたのだ。

  そのグループは、主に歩いている人を数人で囲みこんで暴行を加え、現金を奪い取っていくといった方法で収入を得ているといったグループだった。

  最初はそんなグループやり方に戸惑いを見せていた天上だったが、日に日に戸惑いはなくなり、今では平気でそれをやっている。今日だって、二人ほどボコボコにして金を奪ってきたのだ。

  十二月…冷たい空気が天上を包みこむ。

  天上はジャンパーのポケットに手を突っ込み、白い息を出しながら大通りの方へ足を運ばせる。

  すると突然、天上の頭に鋭い激痛が走った。

 「ぐはっ」

  天上は顔から固いアスファルトに倒れこんだ。

  何だ?

  天上は起き上がろうとしたが、手足が思うようにうまく動かせない。

  天上の体に今度は冷たい液体が上半身から下半身まで振りかけられた。

  水か?それにしてもコイツは妙に臭い…まさか!!

  天上の背中に火の付いたマッチ棒が一本落とされた。

  夜の暗い裏通りが明るくなった…



  主な登場人物

  ドル………元野球選手 棒人隊隊長

  レアル………元サッカー選手 棒人隊副隊長(私)

  元………元コック

  マルク………元軍人

  ユーロ………元画家

  堂山静香………棒人隊新メンバー


  鬼島直樹………(ダーク)ヘッド

  赤井慎也………(ダーク)メンバー

  青崎ヨシト………同


  灰河俊夫………(ダーク)元ヘッド


  天上哲士………依頼人

    幸子………その妻

    智勝………その息子、(ダーク)メンバー


  放火魔B………上記の誰か



  九十八枚…九十九枚…百枚!

 「フウ…こっちも終わった…」

  疲れきっていた私は床の上に倒れこんだ。

 「遅いぞ、レアル」

  そう言って、ユーロがコップに注いた水をぐびぐび喉をならしながら飲み干す。

 「お前が早すぎるだけなんだよ…」

 「よし!こっちも終わった!」

  そう言って、私の隣に元がバタリと倒れこむ。

 「封筒作りって結構難しいものだな」

  マルクが伸びをしながら言った。

 「隊長、あんたは?」

 「今…十枚目が終わった所だ…」

 「ったく…みんな!!手伝うぞ!!」

  そう言って、私達は再び封筒作りに取り掛かった。

  遅ればせながら自己紹介をしておこう。私の名はレアル、この棒人隊の副隊長を務めている。さっき水を飲んでいたのはユーロ、非常に短気であり、気に入らない事があればすぐに暴力に走るとんでもない困ったヤツだ。私の隣に倒れこんだヤツが元、頭は非常に悪いが、料理、特に中華料理が大の得意だ。マルク、彼は温和な性格だが、軍人だった頃なにをしていたか分かったもんじゃない。そして、この棒人隊をまとめているのがドル、だが、彼はつねに自分が中心でないと気がすまないタイプでその上、頭が悪い、なので、彼は隊長の器ではないとみんな思っている。

 「やっと終わった…」

 「俺達五人の合わせて五百枚、十枚作って1円だから、50円の儲けだ!!」

  けして高くはない金額ではあるが、苦労して稼ぐのだから気持ちいものだ。

 「さて、さっそくコイツを持って行くか…」

  ドルが出来たばかりの封筒をかき集め束にし、玄関の前に行った。

 「それじゃ、行ってくるぜ」

  ドルが玄関のドアを開けた瞬間、何か茶色い物がドルの体にブチ当たった。

 「なんだこりゃ…」

  私達はドルに駆け寄り、ドルにブチ当たった物を見た。

 「コイツは…」

  水分をたっぷりと染み込ませた泥団子だった。

 「あいつだ!!」

  マルクが指を指した。その先には…

 「仁意か!」

  ドルに泥団子を投げつけた男は、仁意打蔵という名で、私達のような仕事を探しているやつの家に行っては嫌がらせばかりするとんでもないヤツだ。

 「あのヤロ…」

  マルクは外に出て仁意に向かって走り出した。仁意も身の危険を感じ取ったのか、クルリと回れ右をし、全速力で走り出した。

 「大丈夫か?隊長?」

  元が笑いをこらえたようにドルに尋ねた。

 「封筒…」

  ドルが呆然とした顔で呟いた。

 「ああああっ!!!」

  ユーロが大声で叫んだ。

 「ふ…封筒…」

  そう言ってユーロはバタリと倒れこみ、失神した。

  私達が苦労して作った五百枚の封筒は泥でグショグショになり、使い物にならない物になっていた。

 「ああ!逃げられた!!」

  マルクが大声で叫びながら帰ってきた。

 「あいつオリンピックにでたら余裕で今の世界新記録を破るぜ」

  マルクが疲れた表情でソファに座った。

 「封筒もこれじゃ、どうすればいいんだよ…」

 「ただいまー」

  私達が呆然となっているなかで、可愛らしい声が玄関から聞こえた。

  さっき紹介し忘れたが、二ヶ月前に入った棒人隊の新メンバーの堂山静香だ。

  彼女は16歳で、今買出しから帰って来たのだ。

 「ど…どうしたんですか!?」

  静香は泥まみれになったドルを見て、ドサリと買い物かごを落とした。

 「見りゃ分かるだろ…」

  ドルがグッと立ち上った。

 「い…今お風呂を…」

 「いや…いい…」

  いつもなら快く入るだろうが、苦労して作った封筒をダメにされた彼は今そんな気分じゃ無いらしい。

 「いつかいいことありますよ」

  静香が懸命にドルを励まそうとする。

いつか…だろ?」

  今の彼には誰のどんな励ましも通用しないらしい。

  プルルルルルルルルルルルル、プルルルルルルルルルルルル

 「電話だっ」

  依頼用の電話が鳴るのは二ヶ月前の棒人美術館館長、風美光時の電話以来だ。

 「ハイ、こちら棒人隊です」

  静香が素早く受話器を取り、早口で言った。

 「ハイ…そうですか…ハイ…すぐいきます!」

  受話器を置くと、すぐにドルに言った。

 「仕事を依頼したいそうなので、すぐに来てくれとの事です」

 「なぜ断らなかったんだ?」

  ドルがソファに顔を埋めた状態で静香に聞いた。

 「なぜって…何年かぶりにクリスマスにケーキが、大晦日に年越しソバが、お正月にお

餅が食べられるかもしれないんですよ!!」

  それを聞いたドルがソファから跳ね起きた。

 「よっしゃあ!!やってやろうじゃねえか!!」

  ドルは食べ物が絡むと異様に張り切る。



 「ここか…」

  私達六人は依頼人の家の前まで来ていた。

 「ここで間違いないだろうな、静香」

 「ハイ、電話で聞いた住所と同じなので、間違いないと思います」

 「依頼人は確か、天上だったよな?」

 「エエ」

 「では、さっそく…」

  そう言って、元がインターホンを押した。

 「はーい」

  家の中から声がして、中から中年の女性が出て来た。

 「棒人隊のドルとそのメンバーです」

 「…お待ちしておりました」

  そう言われて私達は家の中に通された。

 「主人が待っています…」

  何だ…この暗い感じは…

  皆もそれを感じ取ったのか、家の中をキョロキョロと見渡している。

 「こちらです…」

  私達は大きな客間へ入れられた。

 「よく来ましたな」

  客間の一番奥のソファに中年の男性が座っていた。

 「どうも、依頼をお願いします天上哲士と申します…」

  この人も異様に不気味な人だな…

 「幸子、この方達に紅茶を入れてきなさい…」

  幸子さんはハイと言うと亡霊のようにスウッと客間から出て行った。

 「さっそくですが、依頼料の方はこれくらいで…」

  天上さんは薄い紙を一枚ドルに差し出した。

 「ぎほはっ!?」

 「ばひん!」

  その依頼料の大きさに私達は無意識の内に意味の分らない叫び声を上げていた。

 「こ…こんなにもらっていいんですか?」

  ユーロが恐る恐る天上さんに聞いた。

 「この依頼を成功させた時の話ですけども…」

  やっぱり…

 「紅茶をお持ちしました…」

  幸子さんが来たので、私達六人はそれを受け取った。

 「それで、依頼の方は?」

 「まずはこれを見てほしいのです…」

  それは新聞の切り抜きだった。


  またもやBの犯行か!?

  十二月十八日、路地で人が焼かれていると警察に110通報があった。死亡していた

のは近所に住む、無職、天上智勝さん(19)で、警察の調べでは最近多発している連

続放火殺人と、なんらの関係があるあるとして調べを進めている。


B…今年の九月の中旬に出現した放火魔殺人犯の異名である。

  奴は人を殴り、倒れた所をガソリン等をかけて火をつけるといった、残忍な犯行でニュースでも大きく取り上げられている。

  Bというのは、数少ない目撃者の証言から取ったのだ。黒いのコートに身を包んで犯行を行うため、マスコミかメディアの誰かが奴の事を(ブラック)と付け、それが世間に出て縮約され(B)となったのだ。

 「そこに書いてある(天上智勝)とは、私の息子の事です」

 「そうですか…」

 「息子は人様に迷惑ばかりを掛けていましたが、それでも私達の子供という事には変わりありません」

 「はあ…それで…私どもにどうしろと…」

 「Bを捕まえてもらいたいのでございます」

  ここまでくれば大体予想がついたが…

 「げほっ ごほっ がほっ」

 「どうした?静香?」

 「すいません、いきなり噎せてしまって…」

  「警察の方々も全力で調査しておいでみたいですが、彼らだけでは信用なりません…」

   天上さんは煙草を出して口にくわえた。

 「ホテルの手配をさせていただいていますので、そこを拠点として活動してもらえば結構です」

 「分りました」

 「それと、これを…」

  天上さんはメモの切れ端のようなものをドルに手渡した。どうやらなにかの地図のようだ。

 「これは…」

 「息子が入っていたグループの溜まり場です…」

 「そうですか…」

  紅茶を飲み終えると私達は天上家を後にした。

 「これに天上さんが手配してくれたホテルの住所が書いてあるから、明日にでも荷物を纏めて行こうぜ」

  家に帰ると私達は荷造りを始めた。

 「旅行に行くんじゃないから着替えだけ持って行くぞ」

 「じゃあ隊長、あんたがさっきバックに入れてたポテトチップスは何だ?」

 「…気のせいだ…」

  Bか…奴は今頃一体何をしているのだろう…



  この日の深夜一時…

  青崎ヨシトは一人で裏通りを歩いていた。

  数日前も仲間が一人Bにやられたとヨシトも聞いていたが、自分だけは大丈夫だとヨシトは思っていた。

  彼は子供の頃から趣味で空手や柔道をしていたので体は丈夫であったし、ケンカも人一倍強かったので、Bがもし現れても十分太刀打ちできる、そう思っていた。

 「!?」

ふと後ろの方で人の気配がしたので振り返ってみた。

  ヨシトの数メートル後ろで黒いコートを着て、所々凹んだバットを持った人物が立っていた。

  その時、ヨシトは走って逃げれば良かったのだ。

 「お前がBか…」

  ヨシトがBに詰め寄る。

 「さんざん何人も仲間を焼き殺しやがって!」

  ヨシトのストレートパンチがBの顔面に当たった。Bが少しよろめく。

 「どう…」

  バコッ…

  Bがヨシトのこめかみにバットをぶち当てた。

  そうか…こいつは武器を持ってたんだ…

  ガキッ…

  Bの容赦ない二発目の攻撃がヨシトの脳天にブチ当たる。

  嫌だ…まだ死にたく…

  ヨシトは全てを思う前に、ヨシトは崩れ落ちた。

  残されたBは影から金属の缶を取り出し、いつもの作業に取り掛かった…



 「なかなかいいホテルじゃん」

  ユーロがベットに横になった。

 「棒人隊じゃ、今にも崩れそうな求人誌の山の中で布団を敷いて寝るから怖くて眠れやしない」

  私達六人は朝の七時に家を出発し、昼の十二時にここへ到着したのだ。(ドルがバスを

間違わなかったら、もっと早く着いていたのだが…)

 「ルームサービスか何かを頼んでくる」

  ドルがベットの横にある電話機に手をかけた。

 「そういえば、昨日もBの犠牲者が出たらしいぜ」

 「はっ?」

  マルクがいきなり言い出したのでビックリした。

 「今日の新聞さ」

  そう言ってカバンからクシャクシャになった新聞を取り出した。

 「ここだ」

  マルクが指を指した場所はかなり大きな記事が集まっているページだった。


  またBの犠牲者が

  昨日、棒人市の路地で男性が燃えていると110番通報があった。警察が駆けつけた

時には男性はすでに死亡していた。

  死亡していたのは近所に住む、無職、青崎ヨシトさん(21)で、警察では、最近多発している放火殺人とかかわりがあるとし、調査を進めている。


 「早くヤツを終わらせねえと…」

  私はギッと歯軋りをした。

 「その青崎って人、天上さんの息子さんが入っていたグループの一人らしいですよ」

  静香が荷物を置きながら言う。

 「おい、そろそろ出掛けたほうがいいんじゃないのか?」

  元が私達に言った。

 「まだだ」

  ドルが元の肩をトンと叩く。

 「ルームサービスがまだ来てないじゃないか」



  午後一時、私達は軽い昼食をすませると、私達は天上さんが書いてくれた地図を基に、グループの溜まり場へとむかっていた。

 「天上さんの息子が入っていたグループの名前は(ダーク)というそうだ」

 「微妙な名前だな」

 「おっと、こうしている間に着いちまったらしいぜ」

 (ダーク)の溜まり場は裏通りにある【デクレシェンド】という薄暗いカフェで、周りの空気がそこだけ何故か痛いような気がした。

 「こんな所に入って大丈夫なんだろうな?隊長」

 「…俺は用事を思い出したから、ちょっとかえ…」

  マルクがドルの右腕を、ユーロが左腕を掴む。

 「行きますよ…隊長…!!」

  私達六人はカフェの扉をこじ開けた。

  扉を開けると暗い視線が私達を包みこんだ。

 「何だ?お前ら…」

  数人の青年が椅子に座っており、その中の一人が冷たく言った。

 「なんだよ、ここはカフェなんだから誰がいつ来てもいいじゃないか」

  マルクが陽気にカフェの中を見渡しながら近くにあった椅子に座った。

 「どけ、ここは鬼島さんの席だ」

 「誰がどこの席に座ってもいいんじゃないのか?」

 「お前ら何しに来やがった…」

  カフェに居たメンバーの全員が立ち上がった。

 「実は俺達は数日前からお宅のグループを騒がせているBの調査をしてるんだ」

  ユーロがそう言って、得意げに話す。

 「だから、その事について話してほしいんだ」

 「ああ、それなら赤井のヤツがよく知ってると思うよ、そして話をきいたら早く帰ってくれ」

 「分かった、んで?その赤井ってヤツはどこに居るんだ?」

 「あそこさ」

  その男は名前の通り、血ぬったような赤髪をしているヤツだった。私達六人は赤井の周囲に集まった。

 「赤井さんだな、あんたが」

  ドルが声を震わせて赤井に言った。やはりこういう所は彼にとって怖いのだろう。

 「そうだよ、俺が赤井だよ」

  赤井がグラスに酒を注ぎながら答える。

 「ヨシトの話しだろ?どうしてもあんたらが聞きたいってなら教えてやるよ」

  そう言って私達六人の方を向いた。

 「あんたら、新聞読んでるか?」

 「…ああ」

 「それで、俺達のグループの青崎ってヤツが死んだ記事が載ってただろう?そいつの死体を一番先に見つけたのは実は俺なんだ」

  おっ、これはいい資料になりそうだ。

「その時の話を詳しく教えてくれないか?」

 「いいだろう」

  そう言って彼はその時の事を語り始めた。

 「昨日…いや、今日の数時間前の午前一時頃なのだが、俺が路地を歩いていると、他の路地から何かが焼けているような臭いがしたから何かと思って様子を見に行ったんだ。

  そしたら人が燃えているじゃないか。

  その横で黒いコートを着てバットを持った奴が立ってやがるんだ。

  そいつは俺の姿を見るといきなり襲いかかってきやがったんで、俺は驚いてその場から逃げたんだ。

  間違いないぜ、そいつがBだ。

  大通りまで逃げた俺は携帯電話ですぐに警察に連絡したよ、燃えてるのが青埼のヤツだって知ったのは今日の新聞を見てからだぜ」

  言い終えると赤井はグラスの酒をグビッと飲みほした。

 「言い終わったんだから早く帰ってくれ」

 「分った、ありがとう」

  そう言って私達が赤井に背中を見せた時だ。

 「まてよ」

  赤井を含む(ダーク)のメンバーが私達に近づいて来た。

 「これだけの話しを聞いといて、ただで返すわけにはいかねえなあ…」

  よく見れば金属バットを持っている者もいる。

 「おい…これってちょっとヤバいんじゃないか…」

  元が小声で私達に告げる。

 「大丈夫、六人もこっちは居るんだ」

 「向こうは十五人ほど居るが、そして金属バットを持って武装をしているヤツは七人だ」

 「………」

 「今の俺達は何も武器を持ってませんよ」

  そんな時、私達がやる時は決まってる…

 「いくぞ!」

  私達はふたてに分かれた。

  私のチームは私、ユーロ、静香。

  もう一方のチームはドル、マルク、元。

 「お前らは右、俺達は左を行く!」


  そう、ふたてに分かれてこのカフェから逃げるのだ。

 「おりぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

  ドルが近くにあった椅子を踏み台にし、高々と宙に飛ぶ。それを合図にカフェに居た全員が行動を開始した。

 「おらっ!」

 (ダーク)の一人がバットを振り上げた。私はそのすきにそのメンバーの腹を鉄拳をかました。

 「いいぞレアル!今のうちだ!」

  私達はそのメンバーの脇を通り、出口へと急ぐ。

 「俺達にそんな物を向けるなんて、いい度胸じゃないか?」

  ユーロが両手で二人のメンバーの首を掴んだ。そして宙に持ち上げてブンブン揺すると、その二人は口から泡を出して失神してしまった。

 「よし、そのすきに…」

  ユーロの腹に大きな拳がめり込んだ。そしてユーロはその場に倒れた。

 「さんざんお前らここで勝手な事しやがって…」

  背丈が2メートルもあるかと思う位の大男がそこに立っていた。

 「鬼島さん!」

 (ダーク)のメンバーの一人が叫んだ。

 「こいつらをはたき出すぞお前ら!」

 「ハイッ!」

  どうやらこの鬼島と言う男が来てしまった事により、ヤツらの熱を上げてしまったらしい。

 「ユーロを頼む!レアル!」

  一番出口に近いドルが叫ぶ。俺がユーロを何とかしなきゃいけないのかよ!!

 「では、お先に…」

  そう言って素早くドル、マルク、元はカフェから滑り出た。

  残ったのは私、静香、ユーロの三人か…

 「よそ見すんなよ…!」

  後ろからそんな声がして、私の頭に激痛が走った…



  私はホテルのベットの上にいた。

 「気がついたようだな」

  ドルが横で私の顔を覗きこむ。

 「一体…俺は…」

 「ああ、バットで一発かまされたようだな」

  ドルの話によると、カフェを一回出た三人は急いでホテルに戻り、武器(世間的見てそんな感じの物じゃなさそうな物だが)を持ってカフェに戻って、私達三人をがんばって助けてくれたらしい。

  ユーロは所々に傷を負ったものの、元気に私を担いで帰ってくれたそうだ。

  静香は服などを少し引っ張られただけで、私達の様に金属バットでメッタ打ちにはされなかったそうだ。(連中も少女にそんな事をするほど鬼ではないようだ)

 「あんな連中だから、Bに狙われても頷ける…」

 「それよりも、あの赤井ってヤツの証言、どう思う?」

 「あの男が言ってる事が本当でも嘘でも、なんの手がかりにもならないだろう」

 「もし、話がほとんど嘘だったら?」

 「エッ」

  元がいきなり言い出したので、私達は元の方を向いた。

 「もしアイツが嘘をついてたとしたら、理由は二つしかない、一つは俺達が困るのを見て楽しむか…」

 「…楽しむか…なんだ?」

 「ヤツがBか…」

  小さい声で彼はポツリと呟いた。

 「その可能性は十分にあるな」

 「でも動機は?何で仲間を殺す必要なんかあるんだよ」

 「そんな事いくらでも考えられる」

 「それと、なんで人を殴って気を失わせた後にガソリンで体を焼く必要なんかあるんだよ。殺すならナイフ一本あれば十分だろ?」

 「何かその犯行でないといけない理由があるのか?」

  分らない…

 「まあ俺は(ダーク)の事をいろいろ調べてみるから、お前らはなにか次の策を考えてみるんだな」

  マルクがそう言って部屋をあとにした。

 「俺は思うんだが…」

  ユーロが私達に言った。

 「なんだ?」

 「俺の考えでは、今日の夜もBは誰かを殺しに行くと思うんだ、だから俺はヤツが犯行を行うと思うんだ。だからその時を狙った方がいいんじゃないのか?」

 「名案だ、よし、今日の深夜それを行おう」

 「でも…もしBが来なかったら、どうするつもりですか?」

 「たしかにそういう事もあるだろう。しかしな、静香、調査ってやつはな、根気という物も必要なんだ」

  ドルは珍しく優しくそう言うと、ドカッとソファに座った。

 「おそらくヤツは今度も深夜に犯行を行うだろうから、夜にここから出た方がいいかもしれないな」

  今日の…深夜か…!



  同日、午後十一時…

  私達六人はカフェ【デクレシェンド】の近くの路地にいた。

 「よし、全員、さっき俺が指定した位置に移動しろ」

  ドルの言葉で私達は暗い路地のいたる所に散った。

  私は大通りから遠い、路地の一番中心部あたりに配置された。その次に中心部に近いのはドル、その次はマルク、ユーロ、元、そして、一番中心部から遠いのは静香。

  体中から何かが湧いてきた。それは、二ヶ月前の大怪盗Yの事件以来だ。

 「どこからでもこいよ…B…」

  一時間後…

  静寂した路地が騒がしくなり始めた。どうやら(ダーク)のメンバーの数人が{仕事}をやりに行くらしい。

 「おっと」

 (ダーク)の連中がこちらに向かって来たので、私は近くにあったポリバケツの陰に隠れた。

 「今日来たあの連中マジで弱くね?」

  おそらくメンバーは私達の事を話しているのだろう。

 「ああ、一回逃げて武器持って来やがったあの連中か、あんな武器がないと何も出来ないような連中は社会悪だぜ」

  お前らだって金属バット使いやがったくせに。それに社会悪なのはお前らの方だ!

 (ダーク)の一行が通り過ぎると、路地には私だけが取り残された。

  私達はあんな社会のゴミ集団のために寝る時間を削って仕事をしているのか…

 「ギヤアァァァァァァァァァァァァァァ!!」

  突然、暗い闇の中で叫び声が聞こえてきた。

  何事だ!?私はその叫び声のした方に走った。まさか…

私がその場にたどり着いた時には最悪だった。

  額から血を出してその場に倒れこんでいる者、ふらふらしながらナイフを持って戦おうとする者、それらの者達は、さっき私の前で棒人隊を侮辱していた者達だった。そして彼らの先には…

 「B!!」

  始めて私は見るが、直感ですぐにヤツだと分かった。黒い凹みまくった金属バット、黒い布でできたフード付きのコート。顔はフードに隠れてよく見えない。

  Bは私の姿を認めると、バサッとコートを翻し、ここの路地よりもさらに細い暗い路地に飛び込んだ。

 「まてっ!!」

  私も続いてその路地に飛び込んだ。路地は暗く、またBも黒いコートを着ているため、見失いそうだったが足音で分かる。

 「クソッ、ちょこまかと逃げおって!」

  私がそう叫んだ瞬間、足音がピタッと止まった。何だ?どうした?私はあたりを見渡した。

 「う…う…」

  横の方で、何やら呻き声がしてきたので、私はその方向を向いた。すると、そこには頭をおさえて座りこんでいる静香がいた。

 「どうした!」

  私の影からマルクがニュッと出て来たので、私はビクッとした。

 「お…お前いつの間に…」

 「お前と一緒にBを追ってたじゃないか、気付かなかったか?」

  Bを追うのに夢中でコイツの存在に全く気付かなかった…

 「どうした?何があった?」

  レアルが静香に聞いた。

 「すいません…大通りに逃げられました…」

 「そうか…クソッ!」

  私はアスファルトに拳をぶつけた。

  しばらくすると、他の棒人隊メンバーが駆けつけてきた。

 「そうか…逃げられたか…」

  ドルがガックリと肩と頭を下げた。

 「たまにはこんな事もあるって」

  元がドルの肩を叩いて慰める。

 「今日はもう帰ろう、反省会をするぞ」

 「怪我をしてたあの(ダーク)のメンバーはどうするんだ?」

 「知るか、自分らで何とかするだろう」

 「早く帰ろうぜ…」

  私達は暗いホテルに帰る道をトボトボと歩いて行った…



  反省会は十分ほどで終わり、私達は眠りについた。

  一時間ほど眠った所だろうか、私の耳にカタカタカタカタと、本当に耳触りな音が聞こえてきた。誰だよ、こんな夜中に…

  私は、布団から出て、その音のする方に向かった。

 「マルク、一体こんな夜遅くに一体何をしてんだ…」

  音を出していたのはマルクだった。相当の早さでキーボードを叩いている。

 「見て分からないのか、パソコンをやってるんだ」

 「そうじゃなくて、なんでパソコンなんかこんな時間帯にやってるんだ?」

 「(ダーク)の事を調べてるんだ…」

  マルクが呟いた。

 「ヤツらはあんな連中だから、一度や二度、警察にお世話になってると思うんだ。そこから俺は真相が見えるんじゃないかと睨んでる」

 「あっ、そっ、頑張ってね」

  こんな夜中に起こしあがって…私はもう一度布団の中に入り、眠りについた…



 「起きろ!レアル!」

  私はパチパチと優しい平手打ちをくらって目を覚ました。

 「何だよ…マルク…」

  マルクは興奮した表情をしていた。

 「実はヤツらの事を調べてたら、恐喝罪で捕まった事のあるヤツはたくさんいたんだが、一人、殺人罪で捕まってるヤツがいたんだ」

 「何!?」

  私は布団から跳ね起きた。

 「今日はそいつの家に行こうと思うのだが、お前はどうだ?」

 「もちろん行くに決まってるだろ!」

 「みんなも誘ってみようぜ!」

  私達は残りのメンバーを起こした。最初は寝起きでグダグダと訳の分からない言葉を発していた皆だったが、新しい手がかりが見つかったと分かると、途端に張り切りだした。

 「んで?その昔、人を殺して捕まったヤツは何て名前だよ」

  ドルがニコニコしながらマルクに聞いた。

 「灰河俊夫ってヤツなんだが、どの道気をつけた方がいいだろう、相手は元殺人鬼なんだからな」

 「すいません、私は昨日の事があるのでちょっと…」

  静香が申し訳なさそうに私達に言う。

 「大丈夫、もしやばくなったら俺達がお前を守ってやるって」

  ユーロが静香の背中を叩いた。

 「ありがとうございます、でも私は本当にああいう人がいる所には行きたくないんです」

  静香が本当に行くのが嫌そうだったので、私達はホテルに静香を置いていく事にした。

  五分後…

  私達はパジャマからいつもの服装に着替えると、ホテルを出た。

 「さっき言い忘れたんだが…」

  いきなりマルクが口を開いた。

 「灰河ってヤツの殺人のやり方ってのが、今回のBの事件と似てるんだ」

 「へー、んで?そのやり方ってのが?」

 「人から金目の物を奪い取ると、メンバーにその人を抑えつけさせて、その上からガソリンをかけて、火をつけるといったやり方だったんだ」

 「それで?灰河は捕まったんだろ?裁判の方はどうなったんだ?」

 「その時の灰河の心理状態はふつうじゃなかったとして、無罪」

 「オイ…」

  ドルが恐る恐る口を開いた。

 「そんなヤツの家に行くのなら、なんで武器をホテルに置いていった?」

 「こっちには五人もいるんだ、素手でもなんとかなりますよ」

  後になんとかいかない事になるとは、まだ私達は予想もしてなかった…



 「ここだ」

  マルクが地図(彼が、がんばって調べておいたのである)を見て言った。

  そこはすすけた壁をした小さなアパートだった。私達は管理人さんに灰河の部屋を教えてもらうと、私達はその教えてもらった部屋に足を運ばせた。

 「ここか…4号室、灰河の部屋か…」

  元がそう言い、インターホンを押した。中からガタガタという音がして、見るからに傲慢で残忍そうな大男が出てきた。

  ゴーレム…それが皆の第一印象だっただろう。

 「何だよ…」

  灰河がボサボサの頭を掻きながら私達に言った。大量のフケが中に舞う。

 「ある話を聞きたいので、中に入らしてもよろしいですか?」

  ドルが愛想笑いをすると灰河は呆れたような顔をすると、私達を中に入れた。

  灰河の部屋はカップ麺や酒の空きビンが大量に転がっていた。

 「どこにでもいいから座れ」

  しかたなく私達はそれらのゴミをよけて座った。

 「話ってのは、一体何だ?」

  灰河は酒(おそらく自分ようの)を注ぎながら聞いた。

 「数年前、あなたが犯した殺人事件の事です」

  すると灰河はビクッとする所か、ニヤリと不気味に笑った。

 「ああ…あれか、いいだろう、話してやるよ」

  話し終えた時、昨日の赤井のような行動を起こさなければいいが…

 「俺達はいつものように仕事をしただけなのに警察の連中に捕まったんだ、ヒデェ話だろ?」

  それを平気で言えるお前の方がヒデェ。

 「裁判は俺の名演技で無罪だったよ」

  その時のコイツの精神状態がふつうじゃなかったと言うのは嘘だったのか…

 「だが、その後仲間の態度が急に変わったんだ、あいつら前から俺が(ダーク)のヘッドだってのを不満に思ってたのだろうな、俺を(ダーク)から追い出しやがったんだ」

  それはお前が不満だったとか、そんなのじゃなくて、もうお前に付き合って殺人の手伝いをするのが嫌になったんだろ」

 「しかしよ…」

  灰川はクックックッと、低い声で笑った。

 「もう一度見てみたいもんだぜ…」

 「何をだ?」

  ドルが身を乗り出した。

 「全身に火がまわって叫びながら転げまわるあの様!俺が裁判で無罪が決まった時、俺が殺したヤツの写真を持っていたヤツのガキのあの涙を浮かべて歪んだあの表情!俺の人生で最高の光景の二つだっ…」

  灰河の体が宙に飛んでいた。ユーロが転がっていたビンで灰河をぶん殴ったのだ。そのユーロの目は怒りに燃えていた。

 「お前はそれでも人間か?」

  そう言ってユーロが二発目を打ち込もうとすると灰河は足払いでユーロを転ばせる。

  ユーロは頭からゴミの山に突っ込んだ。

 「なめたまねしやがって!」

  灰河はダウンしているユーロの顔を蹴り上げた。

 「ユーロ!」

  私達はユーロに駆け寄る。

 「はいか…」

  ドルは灰河を見て叫ぼうとしたようだが、灰河が取り出した物を見ると声を詰まらせた。それは日本刀だった。私も皆も近くで実物を見るのは初めてだった。

 「どうした?」

  灰河は日本刀を肩に置いた。

 「お前らがこないなら、もう一度俺がいかしてもらうぜ!」

  灰河は日本刀を振り上げた。

  こいつ…私達を殺す気だ…

 「うおおおおおおおおおおお」

  元が灰河に飛びかかった。だが、小さい体の元が大男の灰河にかなう訳がない、元は灰河に蹴り飛ばされ、数メートル吹き飛んだ。

 「お前を最初に殺るか!」

  灰河は私達の脇を通り、壁にもたれ掛かっている元に近づいた。

 「灰河…」

  ドルが空きビンを拾い上げた。まさか…

 「俺に背中を見せたのが、間違いだったな!」

  ドルは灰河の頭にビンをめり込ませた。

  灰河の巨体は大量のゴミの山に突っ込んだ。灰河は苦しそうに呻く。

 「行くぞ」

  ドルがプイッと背中を向け、灰河の部屋を出た。そのあとを私達は追う。

 「大丈夫なのか!?」

  ホテルへの帰り道、マルクがドルに聞いた。

 「完璧な正当防衛だろ、やったのは元じゃないけどな。それに俺はあいつを殺していない」

 「それにしても、あんな連中はまともなヤツはいないな」

 「あんなヤツの所に行って何が分かったんだよ!殺されかけただけじゃないか!!」

  元は半泣き状態だ。

 「しかし…Bかと思われる容疑者が増えたな」

 「ああ、灰河はあんなヤツだからな」

 「今日の残りは灰河の事を調べてみよう」

  私達はホテルに戻って一つしかないパソコンの前に集まった。

 「まずは警察のコンピューターをハッキングだ!」

  マルクが何やら変な機械を取り出してパソコンにさした。

 「いいのですか?勝手にそんな事をして…」

  だが私達は静香の心配をよそに、パソコンの画面を覗きこむのに集中した…



 「時間の無駄だったな」

  ドルがグッタリと倒れこんだ。(長時間画面を見続けたからだろう)

 「なんとかハッキングには成功して、証拠もほとんど残らないようにしたが、ろくな情報もなかった」

 「それにしても、もうこんな時間か…」

  時刻は午後十二時を回っていた。ハッキングをやり始めたのは午前十一時頃だったのに…これじゃほとんどの人間が疲れていてもおかしくだろう。

 「俺はもう疲れた!寝る!」

  ユーロはそう言い捨てて寝室に入った。

 「もう俺達も寝よう」

  元とドルはそう言ってユーロの後を追った。(一番先に静香が眠ってしまったらしい)部屋には私とマルクが残された。

 「おい、俺達ももう寝よう」

  私はマルクに言った。

 「俺はもう少し頑張ってみる…」

  マルクはそう言うと、またキーボードを叩き始めた。

 「そうか、寒いから暖かくしてやれよ」

  私の言葉など耳に入ってきていないらしい、無言でキーボードを叩き続ける。

 「それじゃ…」

  私は寝室に入り、床に布団を敷き、眠りについた。隣の部屋からは、カタカタと、キーボードの叩く音が、少なくとも、私が完全に眠りにつくまでずっと聞こえてきた…



  最後までがんばっていたマルクがあきらめて寝室に入ったのが午前二時…その一時間後の、午前三時…灰河俊夫はゴミの山の中で眠りについていた。

  夢の中で彼は笑っていた。その先には、体全体に炎がまわり、のたうち回り叫び声を上げながら苦しむ男、その次は彼の無罪が決まり、男の遺影を持って悲しみに顔を歪めるその男の子供…毎晩この夢を見られるので、灰河は寝る事を楽しみにしていた。

  ピンポーン…

  ドアのインターホンのその音で彼は起こされた。

  何だよ…

  数時間前、いきなり自分の家にきて、自分を思いっきり殴った連中を思い出したが、まさかこんな時間にくる事はないだろうと思い、彼はドアに向かった。

 「だれだ!こんな時間に!」

  返事はない、

 「ったく」

  灰河がドアを開けたその瞬間、彼の目に閃光が走った。

 「おま…お前は…」

  ガキッ…顎に二発目を食らう、

  三、四、五、六、七、八、九発目で、とうとう灰河は崩れ落ちた。

  Bは灰河の体にガソリンをかけると、慣れた手つきでマッチに火をつけると、灰河の体に落とした。

  数十分後…今夜はいつもより大きな火が夜の暗い道路を明るくした…



 「灰河が死んだそうだ」

  起きてきた私達にドルがそう伝えた。

 「ふーん、そうなんだ」

  ユーロは関心がないようだ。

 「それも、今度は灰河だけでなく、灰河の住んでたアパートも焼けたそうだ。まあ、死んだのはアイツだけだそうだが」

 「へー」

 「あいつがBだと俺は思っていたのだが…」

 「事件はまた振り出しに戻る、か…」

  私はそう呟く。

 「おい」

  元が静香に言った。

 「何ですか?」

  ビクッとした様に静香が振り向いた。

 「さっきから何を書いてるんだ?」

  私は今まで気が付かなかったが、机の上に何かを書いている紙が置いてあった。字は小さくてほとんど読めない。

 「な…何でもありませんよ!」

  静香が急いで紙をしまう。一体何を書いていたのだろう…

 「おい、今日は何をするんだ?」

  そう言われてみれば、今日は何もする事がない。

  天上智勝が入っていたグループの溜まり場にも行った。元ヘッドの家にも行った。警察のコンピューターへもハッキングした…

  その時、マルクが布団から出てきて、私に近づいて小声で言った。

 「ちょっといいか?」

 「なんだ?

  私達は四人を部屋に置いてホテルの廊下に出た。

 「俺は真相が分かった」

  いきなりマルクが言ったので、私はビックリした。

 「ほ…本当かよ…」

  私は嬉しかったが、言い出したマルクは悲しそうな表情だった。

 「本当は…本当はこんなの絶対信じたくないが…これが真相なんだ…」

 「んで?Bは誰なんだ?」

  マルクは、本当に悲しい真相を私に語り始めた…



  同日、午後十一時…

  Bは自分の寝床から起きて、服を着替え、必要な物を自分の鞄に詰めて、部屋から出ようとした。

 「そこまでだ」

  自分の背後で声がしたので、Bは恐る恐る私達五人の方に振り向いた。

 「やっぱり…お前がBだったか…静香」

  静香は震えた声で言った。

 「何を証拠に私がBだと言ってるのですか?皆さん…」

  私もこの可愛らしい少女が今まで何十人もの人間を焼き殺してきたとは思えなかったが、ここはマルクにまかせるしかない。

 「お前は今まで俺達が寝ている時にこっそり家を抜け出して犯行に及んでたんだろ」

 「だから、なぜ私がBなのですかと、私は聞いてるんです。それに確かに私はたまに夜に家を出ていますが、それは散歩をしたかったからです」

  静香の目が斜め上の方を見る。嘘はつけないタイプらしい…

 「いいだろう。俺がお前がBじゃないかと思い始めたのは、このホテルに来た初日の日だ。

  俺とレアルが青崎ヨシトが死亡した新聞記事を見ていた時、お前はこう言ったよな、「その青崎って人、天上さんの息子さんが入っていたグループの一人らしいですよ」と

 な…

  だが新聞記事にはグループの事など全く書いなかった。だから俺は、お前が青崎の事をよく知っているんじゃないかとな」

  静香は一瞬ドキッとしたようだが、すぐに冷静さを取り戻した。

 「Bが今まで狙ってた人は皆、(ダーク)のメンバーだったのですよ。それで私は青崎さんがグループの人だと思ったのです」

 「それともう一つ、俺達が灰河の家に行く時、お前は俺達がいくら誘っても、断固として灰河の家に行こうとしなかっただろ。それは灰河とお前がお互いを知っていたからじゃないのか?」

 「証拠…」

  静香がポツリと言った。

 「あなたが今言ってるのは、ただの推理でしょう?本当に私がBだと示している証拠はどこにあるのですか?」

 「おい、証拠なんてあるのか?」

  元が心配そうに尋ねる。

 「もちろんあるさ」

  マルクが大きな声で言った。

 「昨日の夜、俺とレアルがBのお前を追っていた時、お前一度止まってもとの姿に戻ってから、俺達に発見されたんだろ。そこでお前はミスを犯したんだ。Bの足音は遠ざかっていったんじゃなかった、止まったんだよ。止まったのならそこにBがいるはずだ、しかし、そこにいたのは静香、お前じゃないか」

 「クッ…」

 「まあ、俺もこの真相に辿り着いたのは、今日の午前七時あたりだったけどな」

  すると、今まで突っ立ていたドルが重い口を開いた。

 「こんな事、言いたくなかったんだけどよ…静香、警察に自首してくれないか?

  お前は俺達とは違ってまだ先が長いんだ。だからよ…お前の人生をこんな事で…!」

  溜まらなくなったのか、静香は素早く部屋のドアを開けてホテルの出口の方へと走りだした。

 「まて!静香!」

  私の声を彼女は全く無視し、出口の扉を開けると、夜の暗い街へ消えていった。

 「どこに行く気なんだよ…」

  ユーロが早口でドルに聞く。ドルは少し考えたのち、ハッと口を開いた。

 「ここまで追い詰められると…まさか…静香のやつ!」



  その三十分後のカフェ、【デクレシェンド】…

  (ダーク)のメンバーの数十人は、ヘッドである鬼島を囲んで楽しげに話しをしていた。

 「それにしても、昨日は散々でしたね」

  メンバーの一人が鬼島に言った。

 「仕事をやりに行こうとしたら、途端にBに襲われたんですもの」

 「そうそう、あんなやつが新の社会のゴミなんですよ」

 「ハハハハハハハハハハハ」

 「さてと…」

  鬼島が席を立った。

 「どうしたんすか?」

 「決まってんだろ、仕事をやりに行くんだよ…」

  鬼島がドアを開けた瞬間、鬼島の頭に冷たい何かがかけられた。

 「なんだこりゃ…」

  すると、途端に鬼島から火柱が立った。

 「鬼島さ…」

  メンバーの一人が鬼島の方に向かおうとしたが、彼はその人物を見るなり、サッと青ざめた。

 「び…B…」




  私達はカフェ、【デクレシェンド】に向かうため、タクシーに乗っている。

 「もっと早く走れないのか!」

 「これが最高速度ですよ!!」

  そんな事は分かっている、だが私達は一刻も早く【デクレシェンド】に行きたいのだ。

 「着きましたよ」

  私達は代金を払い、タクシーを出た。

 「遅かった…」

 【デクレシェンド】は炎に包まれていた。あたりにはまだ少し炎を出している数体の人型の炭が転がっていた。

 「静香!!」

  ドルが【デクレシェンド】の中に入った。

 「ドル!」

  私は先に入ったドルの後を追った。

  カフェの中は本当に火の海だった。酒のビンが割れていたる所に散乱し、テーブルや椅子が何台もなぎ倒されていた。そして、その中央には…

 「静香…」

  静香は私が始めて見たBと同じ格好をしていた。やはり信じたくなかったが、彼女がBだったのだ。

 「ここまで私を追ってくるなんて…」

  静香は溜息をついた。

 「確かに、マルクさんの推理通り、私が放火魔Bです」

 「なぜ…お前はBなんかに…」

  ドルが静香に聞いた。

 「もうじき分かると思いますよ、私がなぜBになったのか」

 「もうじきじゃなくて、今知りたいんだよ!今!」

  ドルが静香に近づいた。すると静香はドルの腕を掴むと、思いっきり私の方に投げ飛ばした。(彼女の細い腕にそれほどもの力があるとは思わなかった)

  私はドルの巨体がぶち当たり、二人もろともカフェの外まで吹き飛ばされた。

 「静香!!」

  ドルが素早く起き上がり、また中へ入ろうとしたが、それと同時にガラガラという音と共に、唯一のカフェの入り口が瓦礫によって塞がれた。

 「静香…」

  カフェは容赦なしに炎を吹き上げる。



  家事は消防隊が来た三時間後に消し止められた。この火事で中にいた十四人の(ダーク)のメンバーのうち九人と、その火事を起こしたB、堂山静香が焼死した。

  Bの正体が私達棒人隊のメンバーの一人だったため、私達はしばらくの間、警察やマスコミ、メディアから相当叩かれた。

  ようやくひとぼりがさめた私達は五人は、静香の部屋を整理していた。

  静香の部屋はきちんと片付いていた。私や皆の部屋なら床に散乱している求人誌が規則正しく本棚に並べられており、壁に掛けているボードには、私達や彼女の友達のかと思われる人物の写真がたくさん貼られていた。

 「事件は解決したが、後味悪かったな…」

 「ああ、天上さんからは約束通りの依頼料がもらえたが、もらう時の空気が相当痛かった…」

 「やっぱり、依頼料の半分は静香の葬式代に使ってやろうぜ…」

  私がそう言った時、元が声を上げた。

 「これを見ろ!」

  元が静香の鞄から一枚の紙を取り出した。

 「俺達あての手紙だ…」

 「何!?」

  ドルが元からその静香からの手紙をひったくった。

 「読むぞ…」


  貴方方がこの手紙を読んでいる頃には、貴方方は真相に辿り着き、私はもうこの世の者ではないでしょう。

  私が冷酷な放火魔、Bになったのは、数年前の灰河俊夫が犯した一つの殺人事件が原因です。

  私の父は堂山薪示といって、数年前、灰河に殺されました。母がいない私には父だけがたよりでした。

  その時、私は灰河の事を恨んではいませんでした。私は彼がちゃんと罪を償ってきちんと社会に復帰してほしいと思ってました。

  しかし灰河はその私の思いとは裏腹に、精神異常者を装うという汚いやりかたで無罪を手に入れて、法廷から出てきた時、悲痛に歪んだ私の顔を見ると、ニヤリと馬鹿にしたように笑ったのです。

  その時、私はこいつらを父の命を奪った炎で殺してやろうと思いました。私の父やたくさんの命を奪い、私の思いを裏切ったあの本当の放火魔Bを…彼の手伝いをした他のメンバーも同じです。(心の準備ができるまで四年はかかりましたが…)

  私が炎の殺戮を繰り返しているうちに、私は貴方方と出会いました。

  貴方方は本当に私をよくしてくれましたね。私は何があろうと、最後まで諦めない貴方方が本当に大好きでした。

  貴方方と最初で最後にした仕事が、まさか自分自身を捕まえる事だとは思いませんでしたが、それも定めです。

  最後になりましたが、今まで、本当にありがとうございました。

                                    静香より


 「あの時、あいつはこれを書いていたんだな…」

  私はあの日、静香が急いでしまった紙を思い出した。

 「こんなに俺達の事を思ってくれていたなんて…」

  ドルが手紙を握り潰した。

 「今頃、お父さんと楽しげに花畑で散歩をしているだろうな…」

  私達は窓から天を見上げた。

 「さようなら…そしてありがとう…静香…」

  静香の明るい笑い声が天から聞こえてきたようなした…


  END


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